2. 地震保険の重要性

前述のように、財物保険は火災だけでなく水害、風害、雪害などのさまざまな事故を補償しますが、日本においては地震だけは一般的な財物保険では対象外であり、別途地震保険に加入する必要があります。

地震保険という名称ですが、一般的には地震、噴火、津波、およびそれらに伴う火災が補償されます。逆に言えば、地震保険に加入していなければ、地震による火災の損害も補償されないことを理解してください。

地震による損害は、発生確率が低い反面、発生した場合の損失が極めて大きくなり、広範な地域に甚大な影響を与えます。最近は、台風や土石流などの被害も広範囲で甚大なものが多くなってきていますが、それでも阪神大震災や東日本大震災の被害の広さや大きさはずっと深刻です。

このため、民間の保険会社が1社で広範囲な地域の地震リスクを引き受けることはできません。引き受けた地震リスクを海外の再保険会社に分散するなどしなければ、地震保険自体が商品として成立しません。再保険市場でも日本の地震リスクは非常に高く見られているため、再保険料が高くなっています。この高額な再保険料のため地震保険の保険料は高額になります。

日本では個人向けの地震保険に関し、政府が再保険を引き受けることにより低廉な保険料での提供をすることで、国民の地震保険への加入を促しています。広範囲な地域で甚大な被害が発生し、生活環境が大きく毀損しますので、国民一人一人の財産の問題にとどまらず、生活に関わる社会問題だからです。特に最近は、大きな地震災害が続いていることもあり、加入率が上昇しており、2018年度の住宅火災保険の地震保険付帯率は65%になっています。

ところが、企業に対しては、政府による再保険の提供も、保険料の補助もありません。このことから、日本の損害保険会社は企業向けの地震保険の引受は限定的となり、企業にとっては必要なカバーが手配しにくい状況になっています。さらに、前述のように保険料が割高であることも原因の一つとなり、日本企業の地震保険加入率は、PD(財物損失)については30%、BI(事業中断)に至っては僅か3%にとどまっています(資料参照)。

けれども日本企業の地震保険加入率が低い理由は、保険会社の引受姿勢や、保険料が高いだけではありません。日本で事業を行っている欧米企業の場合の、日本での地震保険加入率は、PDとBIいずれも80%程度と言われているからです。

日本の事業で比較しているので保険料が高いという環境は違わないのに、地震保険への加入についてこれほどの大きな違いがあります。これは、日本企業の保険に対する意識やリスク管理の在り方の違いも大きな原因かと思われます。

地震慣れして何とかなると思ってしまっているのか、巨大地震が起きたら他社も同じ状況になるから仕方ないという考え方なのか分かりませんが、日本企業のリスク管理の在り方の問題点です。

地震リスクはめったに起きないが、起きたときには甚大な損害につながります。こういったタイプのリスクこそ移転すべきであり、保険の活用を検討すべきです。保険料が高いという理由だけで、十分な検討を怠ってはリスクマネジメントができているとは言えません。欧米の企業は日本の事業については、まず地震リスクを想定して保険手配を行います。

過去、地震による損害が引き金となって倒産してしまった企業は枚挙にいとまがありません。地震による事業中断が主な倒産の原因なので、PDよりもBIが重要です。

入手困難な地震保険ですが、ウイリス・タワーズワトソンでは海外の再保険を直接活用する方法などで、日本企業に保険料の低減と十分な補償額を提供しています。

3. 適正な自己負担額設定の重要性

本来保険はリスク移転の手段の一つであり、リスク保有とリスク移転の検証と判断が企業のリスクマネジメントに必要なことです。いくらの損害までならリスク保有できるのか? あるいは保有すべきなのか?は企業の財務状況によって異なります。

近年、日本企業の内部留保の厚さが話題になっています。十分な流動性資産を持っているのに、ほとんど自己負担額を設定せずに無駄に保険をかけているという日本企業が多いようです。

その反面、本来必要である地震保険やBIに加入していないといったチグハグな保険手配の状況も散見されます。

十分な現預金があるのに自己負担額を設定せず、小額な損害を保険に請求していることは保険料の無駄払いだけでなく、請求事務にかかる社内コストも無駄使いしていることになります。保険本来の役割である大きな損害に備えることで保険料の圧縮を図るべきです。適正な自己負担額の設定により、保険料規模の大きい財物保険において最も大きな効果を期待できます。

詳細については本連載の『第2回リスクの保有と移転』を参照ください。

 

本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン 関西支店長 兼 グローバルプラクティス ディレクター 大谷和久