グローバル・サプライチェーンを脅かす様々なリスクとそのトレンド
BSI Global Supply Chain Intelligence Report
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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本サイトにアクセスされる方々の多くは、災害対策や事業継続マネジメント(BCM)への関心が高いと思われるので、サプライチェーンにおけるリスクといえば、サプライヤーが災害や事故などの影響を受けたり、物流網が途絶したりすることによって、原材料や部品が届かず、製品を生産・出荷できなくなるような事態を連想される方が多いのではないだろうか。
しかしながら、特にサプライチェーンが海外に広がる現在においては、前述のようなサプライチェーンの途絶に限らず、調達先における違法行為や犯罪、政情不安などを幅広く対象としたリスクマネジメントが求められる。今回紹介する報告書『Global Supply Chain Intelligence Report』は、そのような広い視野でサプライチェーンに関するリスクを世界規模で俯瞰したものである。
本報告書は英国規格協会(BSI)から 2017 年 5 月に発表されており、2016 年における各国・地域の状況を踏まえて、サプライチェーンのリスクマネジメントにおいて留意すべき問題に関する現状や傾向がまとめられている。
報告書の目次を大まかに和訳すると次のようになる。労使紛争、環境問題、企業の社会的責任(CSR)や人権問題など、多様な観点から各国におけるリスクが分析評価されているのがお分かりいただけると思う。
・アジア
- 中国でのストライキを減らすための政府の努力
- 改善されつつあるが、なおも継続している中国の環境リスク
- ベトナムにおける水質汚染リスクと事業継続への影響
- インドにおける主要な改革が事業継続に及ぼす影響
- バングラデシュにおける人権問題に関する懸念の増加
・欧州、中東、アフリカ(EMEA)
- ドイツとイタリアにおける貨物盗難に関して注目すべき傾向
- 欧州におけるテロが事業継続におよぼす影響
- 欧州における移民問題に関連するサプライチェーンリスク
- CSR に関する欧州での規制
- トルコでのクーデター未遂による、セキュリティおよび事業継続への影響
・南北アメリカ
- メキシコにおける麻薬カルテルの断片化がサプライチェーンにおよぼす影響
- 貨物盗難は依然として南北アメリカにおける主要課題
- コロンビアおよび諸外国のサプライチェーンに対する、コロンビア革命軍(FARC)との和平合意の意味
- 南米発の貨物にまぎれてコカインが輸入されるリスクの増加
- ベネズエラのサプライチェーンに深刻な影響を与える、政治的安定性と経済の悪化
- ブラジルにおける弾劾や抗議と、将来の混乱の可能性
- 南米諸国における、CSR の保護の程度の多様化
- サプライチェーンを対象としたテロの脅威とその傾向
これらの中で、筆者が特に注目したものをいくつか独断でピックアップして紹介する。
ベトナムでは産業排水による水質汚染が深刻な状況になっており、健康被害や魚の大量死などが発生している。当局の検査結果に応じて工場の操業が中断されたり、補償の支払いを命じられるケースがあるが、全体的に当局の対応は遅い。
インドでは新しい物品・サービス税の導入と、課税のためのオンラインシステムの導入によって、州境での関税に関する事務手続きが減るために、トラックが州境で待たされる時間が短縮されると期待されている。これは結果的に貨物盗難のリスクを減らすことになる。
バングラデシュや中南米では依然として児童労働や劣悪な就労環境の問題が深刻な状況にある。エクアドルやパナマなどでは児童労働が減少しているが、ペルーやバングラデシュなどでは状況があまり改善されないなど、取り組みの状況が国によって異なってきている。
メキシコでは麻薬カルテルがより小規模なグループに細分化された結果、麻薬取引ルートが国内外に多様化し、また麻薬以外に収入源を多様化せざるを得なくなったために、貨物盗難や恐喝などの犯罪行為が増加した。
コロンビア政府と FARC は 2016 年 12 月に和平合意に至った。その結果、政治的に安定し、テロ行為によってサプライチェーンが途絶するリスクは減ると期待されている。しかし一方で、従来は FARC がコカインの原料となるコカの 70 % をコントロールしていたため、和平合意の直前にコカインの生産量が駆け込み的に 67% 増加した。さらに、いくつかの反体制派が和平合意を無視して活動しているため、コカインの取引量や密輸ルートが拡大傾向にある。
本稿の冒頭で述べたように、海外に広がるサプライチェーンに支えられたビジネスは、災害や事故だけでなく様々なリスクに晒されている。製品の製造を委託した先の工場で児童労働が行われていたとか、自社が契約した物流会社のコンテナが薬物の密輸に利用されていた、などといった理由で、事業中断を余儀なくされたり、多額の制裁金や賠償金が発生したり、また社会から批判されたり、といった事態に至る可能性もある。
本報告書で示されているような状況認識を踏まえて、特にリスクの高い地域のサプライヤーやビジネスパートナーに関しては、特に注意して状況把握に努める必要があるだろう。
■ 報告書本文の入手先(PDF 28 ページ/約 8.7 MB)
http://bit.ly/2tAi6j1
(了)
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