2013/05/25
事例から学ぶ
ローソンの東日本大震災における対応
リーダーは現場ニーズを聞け
2011年3月11日の東日本大震災。ローソンは、本社・支社の災害対策本部、物流、商品供給など、各現場のリーダーが中心となり、未曽有の危機を乗り越えた。震災から1年後にまとめた「東日本大震災対応記録それぞれの3.11」には、各現場の苦悩と決断が細かくつづられている。危機管理におけるリーダーの役割は何か。ローソンの事例から探ってみた。
ローソン本社は午後2時46分の地震発生からわずか4分後に災害対策本部を立ち上げた。新浪剛史社長は、「ローソンの力が試されている。全力以上の力を出そう」と社員に檄を飛ばした上で、情報のすべてを対策会議議長の浅野学取締役に集約することを指示した。1分1秒を争う非常時に、情報が分散すれば無駄が生じ事故につながりかねないためだ。
1日3回開催される会議では、あらゆる情報を「見える化」最終的な意思し、決定は浅野氏が下した。決定された事項は、会議に参加していない幹部にも詳細な議事録として送り届けられた。
地震発生直後、ミーティングで話し合われた優先課題は2つ。1つは顧客や従業員の安否確認と安全確保。もう1つは救援物資をいち早く、なるべく大量に被災地に運ぶことだった。救援物資については新浪社長が「コストはいくらかかってもいい、考えられる手段を全力で考えよう」と大方針を掲げた。道路事情が極めて悪く、関東地方の工場も生産設備が損傷を受けて東北に商品を送り出せない状況の中、関西の工場から飛行機でおにぎりなどを調達する方法が発案された。
一方、仙台市内にある東北支社では、支社長をはじめ支社幹部は不在で、震災直後は停電と通信の集中による混雑などにより本社にも支社長にも連絡が通じず、被害状況も分からない状況だった。類も使えない中、PCオフィスに居合わせた経営管理マネジャーらは、ホワイトボードを会議室に持ち込み、ラジオを聴きながら明らかになった情報をそこに書き込んでいった。
同社は、震度5強以上(現在は震度6弱以上)の地震が発生すると、本社、支社にそれぞれ対策本部が立ち上がる。災害対応には前線基地である支社があたり、本社はそれをサポートすることが決められている。しかし、東日本大震災では、東北支社が独力でその全域の被災状況を確認することは困難であり、本社の方がテレビ報道などで確認しやすいという逆転現象すら起こった。
支社の災害対策本部との連絡がつながったのはその日の夜。「被災状況はどうだ」という浅野氏の問いに、東北支社は「店とは連絡が取れないし、社員の安否を確認する手段もない」と答えた。浅野氏が下した判断は、「目」まずとなる建設チームメンバーを、「足」となる車両と一緒に「先遣隊」として本社から出すことだった。 先遣隊の一員である支社サポート本部・建設企画部シニアマネジャーは、現地でスクーターが役立つだろうとの判断で、スクーターや救援物資、ガソリンなどを搭載し、現地に向かった。現場で視認した店舗の状況は、損害の程度に応じてランク付けしながら本部に報告した。その情報は、対策会議の基礎資料として最大限に活用された。
その後も、燃料の不足、商品の不足、食品工場の原材料の不足などさまざまな問題が現地から上がってきたが、燃料の不足については、上級執行役員の西口則一氏が京都でガソリンスタンドを併設する店舗からタンクローリーを借りるなど、本社が可能な限りサポートをし続けることで危機を乗り切った。
危機管理リーダーの役割とは何か
一言で危機管理リーダーといっても、組織の中には、経営全体をつかさどる経営層と、部門リーダーなどのミドル層、そして現地の支社や支店、それぞれの階層にリーダーが存在する。各リーダーが、それぞれの役割を果たすことが危機対応では不可欠になる。同社の事例から見るリーダーのポイントをまとめた。
まず、新浪社長が組織として目指すべき大きな方針を掲げた点が挙げられる。「全力以上の力を出そう」「コストはいくらかかってもいい」…、単純だが、明快なメッセージが、組織のベクトルを同じ方向にそろえた。そして、全権をCCO(チーフコンプライアンスオフィサー)としてリスク管理を担当する浅野氏に委譲したことで、ワンボイスによる指揮系統が確立した。
ただし、浅野氏は一切、現地に命令は出していない。あくまで現場が必要とすることの「サポート」に徹し、すべての判断を現場に委ねている。「現地が最も状況を把握しているはずだし、それを信じないで、ああしろ、こうしろと指示をしたところで話にならない」(浅野氏)その上で、。必要な資源などについては各担当部や外部との調整を行い、現地に可能な限り早く送り届けた。
一方、現地スタッフは、被災して支社長支社幹部が不在という状況の中・でも、被災状況の把握や、安否確認など、できることをやり続けた。リーダーは最初からその役割を与えられていることもあれば、災害時には突如として一般スタッフがリーダーにならざるを得ないケースも出てくる。その際、重要なことは、末端の従業員まで含めて、組織のミッションを理解し、優先して取り組むべきことが理解されているかどうかだ。
「ローソンは、コンビニエンスストアが災害時において重要な社会インフラとしての機能を担うことを、全従業員、そしてフランチャイズに加盟するオーナーも企業体質として理解している」と浅野氏は語る。被災地において、市民が普通に買い物できる状況を整えることが、市民に大きな安心を与えることを、阪神・淡路大震災以降、幾度の災害を通じて経験してきた。
そのためには、従業員やフランチャイズ店のオーナー・スタッフ、取引先を含め、生命の安全を確保することが最も重要であり、次いで各店舗が営業を継続できるようにすること、本社が収益性も含めた事業継続の実現をできるようにすることが、優先順位として求められる。そのことが、組織全体で共有されていた。だからこそ、支社をはじめ、各部門が本社の指示を受けなくても、それぞれの判断に基づき行動できたのだろう。
もう1つ付け加えるべき点は、常日頃からの訓練だ。
ローソンでは、支社を含めた年2回(2012年以降は年3回)の全社的な防災訓練を行っている。頭で理解するだけでなく、自らが考え、行動する訓練文化が同社には根付いていた。普段できないことは、危機対応時にもできない。長年積み重ねてきた訓練により、リーダーが機能する土壌が同社にはしっかりと整備されていた。
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