2017/06/09
ランサムウェアと最新セキュリティ情報

パソコン内のファイルを暗号化し、解除のために身代金を要求するウイルス、「ランサムウェア」による攻撃が世界的に猛威をふるっている。英国の病院が利用する国民保健サービスやフランス自動車メーカーのルノー、スペインの大手通信会社テレフォニカといった世界的企業や組織もダメージを受けている。ウイルス対策ソフト大手カスペルスキーのコーポレートビジネス本部エンジニアリング統括部統括部長の関場哲也氏に背景と対策を聞いた。
Q.ランサムウェアの被害が爆発的に広がったのはなぜでしょう。
3月に見つかったWindowsの脆弱性が今回の攻撃では利用されました。その対策が進んでいません。パッチをあてるといった対策を呼びかけても、ユーザーがそれに応えるといった脆弱性に関する管理ができていないうえ、新種のウイルス発見できるアンチウイルスソフトの普及も進んでいないのが現状です。
Q.被害にあっているWindowsマシンの特徴は何でしょう。
今回XPの被害は少なく、7に多いことから、必ずしも古いものだけが狙われたわけではありません。攻撃者は効率のいいところを狙います。7は幅広く使われ、「SMB(Server Message Block)」の脆弱性があったのが大きいとみています。
Q.世界的大企業の被害も大きいですね。
今回のランサムウェアは感染力が強く、1台感染して同じ環境下のほかの端末にも瞬く間に広がりました。えてして大企業ほどパッチの整備や古い端末の入れ替えといった対策が進まないものです。
Q.攻撃元と思われるのは。
コードなどからLazarus Group(ラザルス・グループ)であろうとみています。かつてソニーピクチャーズやバングラデシュの銀行などを攻撃しており、非常に高度な技術を持っている組織です。
Q.今回のランサムウェアの特徴は。
「WannaCry」(ワナクライ)と呼ばれています。通常、メールによる標的型攻撃で使われることが多いですが、今回はログオン機能で使われるSMBやファイル共有といったネットワークの脆弱性を突いたのが特徴の「ばらまき型」と言われています。すべてのパソコンにある機能が感染を広げており、ばらまき型の有効性が確認できたということは、今後もこの種の攻撃が続いていくでしょう。445/TCPポートも狙われています。会社の中などではファイヤーウォールで守られていますが、テザリングやWi-Fiルーターを使うと狙われる。社内外で設定を切り替える必要があります。

Q.防止はどうすればいいでしょうか。
OSなどソフトを最新のものに更新するほかに、Windowsで拡張子を表示することです。アイコンの絵だけで判断すると危険な「.exe」も開いてしまうことがあります。組織でしっかり教育した方がいいでしょう。アンチウイルス製品はブラウザ利用時にリアルタイムでウェブページのスクリプトをチェックする機能が必須。あとは動きだけでウイルスかどうか判断して止める「ふるまい検知」もないといけません。セキュリティソフト会社に情報を送ることで製品の質が向上します。オフラインでのバックアップも重要です。NAS(ネットワーク接続ハードディスク)などオンラインでは攻撃で狙われます。
Q.ランサムウェアに感染してしまったら。
今回の種類であれば身代金支払い期限の1週間以内に1度も再起動していなければ復号キーが手に入る方法も公開されているので、あわてないで専門家に相談すること。身代金を払ってもデータが戻る可能性は低く、犯罪を繰り返させる温床になります。絶対に払ってはいけません。攻撃者の研究力はすごく、これからも脅威がなくなることはないでしょう。基本対策を徹底することが安全につながります。
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
- keyword
- ランサムウェア
- サイバーセキュリティ
- カスペルスキー
ランサムウェアと最新セキュリティ情報の他の記事
おすすめ記事
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
-
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方