2020/04/10
事例から学ぶ

生出(東京都瑞穂町)
精密機器や医療製品を輸送時の衝撃から守る、いわゆるパッケージングの中心にいるのが生出(おいずる)だ。製品特性や輸送条件に応じて最適に加工する包装材の品質に、顧客からの信頼は厚い。それだけに、工場停止となれば与える影響は甚大だ。ウイルスへの感染防止策はもちろん、取引企業や協定企業との連携によって万が一に備えた二重、三重の代替生産体制を準備する。
(※本文の内容は3月4日取材時点の情報にもとづいています)
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
万が一感染者が発生し、工場の操業が止まったら――。製造業にとっては死活問題。中小企業であればなおさらだ。
「業務エリアが近接しているので、たとえば2階の事務所で感染者が出れば1階の製造現場も一時停止をせざるを得ない。単一施設のなかで人の行き来を完全に遮断するのは困難です。一人感染すれば、全員が濃厚接触者になる」
同社品質保証グループ課長でマネジメント推進室ISO管理責任者の西島文則氏はそう説明する。
政府が感染症対策の基本方針を発表し社会情勢が大きく動いた2月下旬、社長の生出治氏が避けられない出張で不在に。その間、西島氏が、パッケージング事業部の鞠子欣也氏とともに緊急対応の指揮を任された。
まず取り組んだのが感染防止策の徹底だ。国の発表を中心に情報を収集し、社内・社外・出入り時の注意事項をガイドラインにまとめて整理。出張明けの生出氏が出社するのを待ってリーダー会議に諮り、細部の調整を加えたうえで、会社方針として打ち出した。
「今回の最大の成果は社員がしくみを整えてくれたこと」と生出氏はいう。「いざというとき、私がいなくても会社が機能することがわかった。BCPの効果がはっきりあらわれている」
代替生産体制を多段階で準備する
同社は総合化学メーカーの旭化成から板状の発泡材(樹脂)を調達し、包装材や緩衝材に加工して提供する。さまざまな工業製品を輸送中の振動や衝撃から守る、いわゆるパッケージングの中核的存在だ。
対象はコンピューターやOA機器、計測機器、自動車部品、医薬品など多岐にわたり、製品特性や輸送条件に応じて最適な包装仕様を一つひとつ設計。1958年の創業時から事業を拡大し、社員は国内に65人、タイに約150人、年商は合わせて約30億円にのぼる。顧客は300社を超えるまでに至った。
それゆえ、工場が操業停止となれば生じる影響は大きい。
災害時やパンデミック時における事業継続体制の構築を顧客から要請される機会も増え、2011年にBCPを策定。そこでは万が一の操業停止を想定し、多段階の対応策を用意している。新型コロナウイルス感染においてもそれらを応用する考えで、検討・実施体制に入った。
第一は、予備在庫の確保だ。通常は平均的な発注予測量にもとづいて1週間分をストックしているが、これを20~30%増量。3カ所の倉庫に分散して積み増しする。
パッケージする製品によって包装仕様が違うことから、ストックは最も使用頻度の高いものから優先順位を設定。「現在はジャストインタイムで日2回入れている製品のロットが最も大きい。1カ月の発注予定が出るから、もし工場が止まっても1カ月は出荷できるだけの在庫が最低でも必要」と西島氏はいう。
倉庫を3カ所に分けたのは、感染発生時のリスク分散だ。「1カ所に置いておくと、感染発生時にすべての在庫が使用不可になりかねない。『別の場所に保管しておいた在庫なので大丈夫です』といえることが、お客様の安心につながる」と話す。
第二の対策は、協力会社による代替生産だ。同社は現在、30年以上取引実績のある外注先に総生産量の約2割を依頼している。加工機械などの主要生産設備が同じで、品質基準も同じ。「人員の応援を出すなどして稼働率を上げてもらえば、最大で総生産量の5割はカバーできる」とみる。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/32316
※6月9日の危機管理塾は終了いたしました。
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