2017/05/23
防災・危機管理ニュース

新興国における事情
新興国においては近年の経済成長、現地労働者の権利意識の高まり等を背景に、賃上圧力が強まっており、実際に多くの新興国で大幅な賃金上昇となっています。またストライキ等の労働争議も増加しており、日本企業の現地での事業活動の中断、生産コストの上昇等のビジネスリスクは急速に高まっている状況です。
新興国においては、労務リスクが事業活動のみならず、経営にまで影響を与えるケースが多くあります。その最大の理由としては、一般的に新興国の多くが過去または現在、社会主義国または社会主義的な政策をとっていた国が多いことが挙げられます。そのため、労働者保護の色が強いことが特徴です。例えば「世界最大の民主主義国家」と称されるインドの正式名称は、憲法前文において「Sovereign Socialist Secular Democratic Republic of India」と規定されており、国家の基本が社会主義であることが分かります。
社会主義的な政治体制ではなかったものの、労働者保護が憲法で明記されていることにより、労働者保護の色が強くなったケースもあります。例えばブラジルの労働法では、1.労働者保護の原則 2.権利非譲歩の原則 3.雇用関係継続の原則 4.現実重視という4原則があるとされています。例えば法解釈に疑義が生じた場合には、労働者に有利な解釈が優先するのが通例となっています。また、複数のルールがある場合にも、労働者に最も有利なルールが適用されることとなります。さらに労働者に不利な内容の契約変更については、その効力を生じない等、徹底しています。そのため年間200万件を超える労働裁判が起きているとされています。
またメキシコの連邦労働法においても、法律の解釈に疑義が生じた場合には労働者に有利な解釈が適用されている点、雇用期間は原則として無期限で解雇の種類は「自発退職」「懲戒解雇」「会社都合解雇」(「会社都合解雇」は不当解雇とみなされ、解雇時の給与の3カ月分を支払う)等となっている点、雇用契約の有無に関わらず、業務上、使用者側に命令権があり労働者側に服務義務がある場合、雇用関係があるとされる点等の原則があります。特に解雇については、連邦労働法第47条に懲戒解雇の際に、必要な相手方への通知等の煩雑な手続きが定められているため、実際上懲戒解雇は困難とされています(解雇に伴う退職金は高額となるため、これを理由に解雇できないケースも見受けられる)。
一方、新興国では近年における急激な経済発展の過程で、海外企業の直接投資を促すために労働関連法令の整備を急いでいます。しかし多くの国で整備途上にあります。そのため実際の運用において、現地政府の裁量範囲が広く、このことが外国企業に不利になる場合も多いとされています。
(了)
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方