2015年の洪水で、常総市では孤立者が多数出る事態となった

孤立者減らすには早期避難

2015年9月の関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊し、茨城県常総市は市域の3分の1が濁流に没した。その間、被災者から必死の救助要請が殺到した。常総広域消防本部(常総市水海道山田町)と茨城西南広域消防本部(古河市中田)にかかった119番は決壊から3日間で2500件以上に達した。かつてない数字である。市民の逃げ遅れが続出し、ヘリやボートなどで計4258人が救出される異常事態となった。茨城県防災ヘリだけでも、3日間で出動は延べ128機、計1339人が救助された。この数字をどう読むか。

ここで、2012年、政府の中央防災会議が公表した首都圏での大規模水害への対策大綱に注目したい。地震以外の災害で大綱を策定するのは初めてであった。鬼怒川決壊の3年前である。大綱は従来の堤防整備など<ハード面>の治水対策とは別に、水害時の避難や救助など<ソフト面>の対策に重点を置いて取り組むべき課題を挙げている。

人口が密集する首都圏での水害の特徴は、膨大な孤立者の発生だ。予想される浸水状況を踏まえ、医療機関や介護施設、在宅の要介護者や障害者などの情報を集め、優先的に救助する対象者をリスト化する必要がある。浸水は一部の地域で2週間を超える。水道や電気などのライフラインの停止が長引く可能性もあり、水や食料、医薬品、簡易トイレなどの供給方法も課題となる。

孤立者を減らすためには早期避難が重要となるため、避難勧告・指示の発令のタイミングを地域別に検討し、都県や市区町村の間で広域的な避難計画を策定することも定めている。政府は、3年前にソフト対策の重要性をすでに指摘しているのである。広域的な避難計画の策定を急ぐよう訴えているのである。

<ソフト面>で着目したいのが、国土交通省が推進している「タイムライン」(事前防災行動計画)である。タイムラインとは、台風の上陸から3日前までさかのぼり、当該の行政当局をはじめ教育機関、公共交通機関などの行動計画を時系列に事前に策定し災害に備えることをいう。

同省荒川下流河川事務所は全国に先駆けて、東京足立区・北区・練馬区などの流域自治体、東京メトロやJR東日本などの関係機関と共にタイムラインを策定し大水害に備えている(今後の連載の中で取り上げたい)。