生死を分けた避難誘導アナウンス
危機感持たせる命令口調が効果的

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/02/22
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
東日本大震災から6年。私は発災直後から3年間ほど毎年2~3回、岩手・宮城・福島3県の被災地を訪ねた。雨滴や泥が染みついたノートや資料類をもとに2万人近い犠牲者を出した未曽有の大惨事での被災地や犠牲者の姿を考えたい。
私の脳裏を離れないのは無残に並んだ泥まみれの遺体の数々であり(思わず合掌した)、疑問が今も残るのが避難勧告・指示が出され消防団などが直接説得しても逃げようとしない被災住民の心理と、その驚くべき数である。なぜ逃げようとしないのか。
この疑問は2015年の関東・東北豪雨での鬼怒川決壊でさらに深まった。警報・勧告が出ているのを知りながら避難しない。これらの原因として「正常化の偏見(正常性バイアス)」「オオカミ少年効果」などの心理的判断が挙げられる。「人間は避難したがらない動物である」とはよく言われることだ。心理的な「本能」のようだが、それは「命の軽視」とは次元を異にする深刻な問題である。
大震災で壊滅的な津波被害を受けた宮城県名取市の海に面した閖上(ゆりあげ)地区での場合を検証してみる。2011年3月11日14時46分~16時までに観測された地震(震度1~6)は26回にものぼった。東北・関東の大地は揺れ続けた。続いて大津波に襲われた。同地区は東北沿岸の中でも大津波襲来の最も遅い地域だった。津波襲来まで1時間10分。逃げる時間はあった。にもかかわらず犠牲者が750人を超えた。なぜこれほどまでの被害となったのか。
不幸だったのは、異常事態の発生を伝える防災行政無線が全く作動しなかったことだ。地震発生直後から携帯のメールがつながりにくくなっていたことも情報伝達を遅らせた。驚いたのは、消防団員の中に宮城県沿岸に大津波警報が発令されていることすら知らなかった人がいたことだ。住民の中にも大津波警報が出されていることを知らなかった、と答えた人が少なくない。
耳をつんざくサイレンでも鳴っていれば住民が一大異変を感じて逃げる態勢をとったであろう。「あまりにも静かだった」という。「自分だけは危険なことは起こらない」そう思い込もうとする人間の深層心理に警鐘を鳴らし、住民を避難行動に導いていく防災無線が役割を果たせなかった。残されたのはラジオであったが、ラジオも聞いていなかった人が多かった。
地震発生後の14時51分、NHKラジオでは大津波警報を伝え始めた。宮城県の予想高さは6m。岩手県、福島県では予想高さは3mだった。閖上は3mと誤って受け止めた住民が多い。高さ3mというのが具体的イメージにはならなかった、という住民もいて考えさせられた。情報から閉ざされ、危機が迫る情報を聞いても逃げようとしない人々、その傾向は海岸部より内陸側の住民に多かった。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方