2017/02/20
未来のレジリエンス・テクノロジー
私は青山学院大学の地球社会共生学部で教員をしていますが、本業は地図屋と答えています。学生達にも地図のつくり方を教えています。先進国にいると気づきませんが、途上国に行くと地図がないのが当たり前です。しかし、テクノロジーの力を借りると一人ひとりが地図を通じて社会に貢献できる時代になっています。
例えば、2016年の6月には地図作成のためにタイのパンガン島に行き、ドローンを使って航空写真を撮影してきました。伊豆大島ほどの島を自動制御のドローンを使って、たった一人で空撮してきました。その解像度は数cmです。この画像情報をもとに地図を作ることができます。
これまでの地図といえば民間の地図会社がお金や人などのコストをかけて商用利用する地図を作ってきました。ところがWeb上の地図で有名なGoogleマップは印刷して配布することはできません。それはGoogleがゼンリンの地図を購入して使い、著作権によって地図が保護されているからです。
私が参加しているのは、みんなで情報を持ち寄って地図を作るオープンストリートマップという仕組みです。クレジットさえ入れれば誰でも無料で利用できます。オープンストリートマップはウェブ上でボランティアが道や建物などの情報を入力してWikipediaの地図版を作成するような取り組みです。
最近ではFacebookの地図もオープンストリートマップを利用するようになりました。日本でもYahoo!地図や日立のナビアプリにも使われています。オープンストリートマップならば著作権を心配する必要はありません。事前の許諾も必要ありません。
オープンストリートマップは災害が起こるとリアルタイムに現地地図の更新を重ね、役に立つ地図として現地政府や国連や赤十字、国境なき医師団などでも利用されています。そもそも地図のない国もあるので現地地図の作成をリクエストされるケースもあります。WHO(世界保健機関)やOCHA(国連人道問題調整事務所)とも連携して活動しています。
東日本大震災でも活用されました。熊本地震が起きたときにもすぐにボランティアが通行止の情報などの被災情報を地図上にプロットして更新していきました。そしてFacebookに伝え、すぐに反映され、地図情報の共有に役立ちました。
熊本地震の土砂崩れで破壊された阿蘇大橋はGoogleマップ上にはまだ存在しています。オープンストリートマップでは阿蘇大橋は存在しませんし(※編集部注:2016年12月6日時点の情報です)、土砂災害エリアも表示されています。国土地理院が撮影した被災地の航空写真を提供してもらい、地図に重ね合わせたりもしました。
このように災害の前後で地域は大きく変化します。リアルタイムの状況を素早く反映させるオープンストリートマップは災害ボランティアセンターなどでも使っていただいています。災害時の被災地エリアの地図づくりをクライシスマッピングと呼んでいます。
未来のレジリエンス・テクノロジーの他の記事
おすすめ記事
-
パリ2024のテロ対策期間中の計画を阻止した点では成功
2024年最大のイベントだったパリオリンピック。ロシアのウクライナ侵略や激化する中東情勢など、世界的に不安定な時期での開催だった。パリ大会のテロ対策は成功だったのか、危機管理が専門で日本大学危機管理学部教授である福田充氏とともにパリオリンピックを振り返った。
2024/11/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/26
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方