相続放棄が認められる期間は決して長くありません

人が亡くなると「相続」が開始されます。相続人は、原則として、亡くなった方(「被相続人」といいます)のプラスの財産(不動産や現預金など)も、マイナスの財産(借金など)も一切を引き継ぐことになります。これを「単純承認」と呼びます。しかし、被相続人に多額の借金があり、手元に残すべきプラス資産も特段ない場合は、相続人が相続をきかっけに借金だけを背負い込むことになってしまいます。このような不都合を回避するため、相続人が被相続人の権利義務の一切を引き継がない「相続放棄」という仕組みがあります。

相続放棄をするためには、相続の開始(被相続人の死亡)があったことを知ったときから「3カ月以内」に、家庭裁判所へ相続放棄の申述しなければならないと民法で定められています。特段手続きをしないまま3カ月が経過すると、一切を引き継ぐ「単純承認」となりますので、注意が必要です。相続人は、被相続人の財産状況を迅速かつ正確に調査したうえで、相続放棄か単純承認かの決断を急がなければならないのです。

なお、このとき注意が必要なのは、相続財産を使ってしまうなどをすると、自動的に単純承認になってしまうという点です。相続関係の手続きは大きな影響を及ぼすので、必ず専門家と一緒に進めてください。

災害時には、把握している資産も大きな被害を受け、どの程度の価値が残っているのか、すぐに判明しません。借り入れ状況なども正確に把握していないこともしばしばです。従って、そもそも相続放棄をすべきか、単純承認をすべきかの判断がつかないという事態に陥ります。一方で、亡くなったことを知ってから「3カ月」という期限を過ぎてしまえば相続放棄はもうできません。

対策としては、3カ月の間に、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に対し「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」をする必要があります。大規模な被災地であれば相応の延長が認められることが多いと考えられます。

また「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」という法律が発動され、かつ政令で相続放棄の期限の延長が決定されているケースでは、3カ月の期限が一定程度延長になっていることがあります。過去にも延長の措置は、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、令和元年台風19号被害で取られています。とはいえ、延長されるのは過去の実績でも半年余り程度ですので、相続放棄の期限はすぐに来てしまいます。

弁護士、税理士、司法書士など専門家の支援を必ず受けて、期間の伸長の申立てを行いつつ、財産の調査を進めてください。

令和元年台風19号による被害は「特定非常災害」に指定されており、相続放棄の熟慮期間が「2020年5月29日まで」に延長されている地域があります。詳しくは「令和元年台風第19号の被災者である相続人の方々へ」(法務省ホームページ)をご覧ください。

(了)