TV、新聞を超えた利用率

危機管理において、世界的に注目が集まるソーシャルネットワークサービス(SNS)。まずは、東日本大震災や、他国での災害時における利用方法から検証してみたい。

東日本大震災では、災害情報の伝達ツールとしてソーシャルメディアが幅広く利用された。NHK放送文化研究所の調査(図1)を見ると、「震災後に利用したサイトやサービス」として、新聞社やテレビ局などのマスメディアのサイトの利用が少ないのに対し、ヤフーの震災特設サイトを含め、ユーチューブ、ニコニコ生放送、ユーストリームなどの動画配信サイトと、ツイッター、ミクシィ、フェイスブックなどのSNSが上位を占めていることがわかる。 

■安否確認としてのSNS
ユーチューブ、ユーストリームなど動画配信サイトが被災状況などローカルな情報提供のツールとして利用されたのに対し、ツィッター、ミクシィ、フェイスブックなどのSNSは、震災直後、固定電話や携帯電話の音声通話がつながりにくかったこともあり、安否確認など、災害時におけるプライベートな情報交換のツールとして大きな注目を集めた。 

リアルタイムの情報発信に強みを持つツィッターでは、今回の震災で海外に住む被災者家族の救助要請のつぶやきが、東京都の目にとまり、宮城県気仙沼市の孤立していた446人の救出劇につながったことが報告されている。 

フェイスブックでは、世界に先駆けて日本向けに災害用伝言版サービスを2012年3月から開始した。 

海外に目を向けてみると、米国では、2010年1月に起きたハイチでの地震をきっかけに立ち上がったグーグルによるパーソナルファイン

ダーが、日本の東日本大震災で広く利用されたことで再び注目を集めている。また、最近では、2012年6月に発生したコロラド州の大規模な山火事で、米国赤十字社のSafe and Wellが利用された(写真1)。これは、被災者が、被災前と避難後の連絡先にメッセージを添えて赤十字社のサイトに登録するサービスだ。

■避難勧告にツイッターを活用


東日本大震災では、SNSはその速報性を生かし、避難勧告の新たな方法として注目を集めた。 今回の震災を例にとると、気仙沼市では、停電でテレビが映らず、固定電話も使えない中、市の担当者がツイッターで住民に避難を呼びかけた。 世界的に見ても、こうした危機発生時における速報性を生かしたツイッターの利用は数多く見られる。2009年の新型インフルエンザ発生時、米国内の地域の保健所では、感染を懸念する何百万という市民に対し、ツイッターを利用して予防接種の予約状況を迅速

に知らせ続けることで対応した。その後1年以内に、米厚生省の一局であるCDC(疫病対策センター)のツイッターのフォロワーの数は、20倍となったことが報告されている(写真2)。 

また、避難勧告ではないが、2011年のビン・ラディンの死亡ニュースや同年のクライストチャーチの地震でも、現場からのつぶやきが、世界新聞社やテレビ局のマスメディアよりも早く情報を伝えた。今や危機の現場にいる被災者が、市民メディアとしての役割を持つ時代になっている。 

しかし、短文の情報をリアルタイムで発信するツイッターは、情報の精度に問題があることが、これまで様々な危機の現場で報告されている。誤解を招く文章や、事実ではない情報、デマや流言など様々な情報が錯綜してしまう。 

配信される膨大な情報の中で、何が正しくて何が間違っているのか、個人では判断することは難しい。例えばそれが、海外で発生した災害だとしたら、なおさらだ。ツイッターで情報を収集して直ぐに行動するのではなく、できるだけ精度が高い情報を短時間で整理することが危機管理の上では重要となる。

このSNSの弱点である、短時間での正確な情報の整理を行う上で効率的なソーシャルメディアのツールをいくつか紹介したい。

■集めた情報を整理
東日本大震災で、情報の整理に活躍したのが、グーグルやヤフーの震災特設サイトだ。被災者向けに、安否情報だけでなく、生活情報や交通情報などを提供していた。 グーグルやヤフーでは、政府や交通機関に加え、通信社や報道各社が発表した情報の中で、被災者に役立つものを提供していたため、一般の書き込みに比べ、信頼性が高いものが多かった。 また、今回の震災では、誰でも無償で利用できるオープンソース・ソフトとして公開されているウシャヒディを使ったプロジェクト「shinsai.info 東日本大震災 みんなでつくる復興支援プラットフォーム」も災害情報の整理として注目を集めた。ウシャヒディとは、被災地からの情報を集約し、データベース化して地図上に表示していくシステム。情報の正誤の判断が行え、被災地の支援案内、道路状況、安否確認など、共有して役立つ情報が取り出せる。2010年のハイチ大地震の際に立ち上がり、その後、クライストチャーチの地震でも利用された。東日本大震災では、発生から4時間後に開設され、震災から2カ月間に1万以上のレポートが発信され、救援物資や医療状況、道路状況などの情報整理のソーシャルメディアとして大きく貢献した。日本語だけでなく、英語、中国語など7カ国語で閲覧が可能だ。

■動画配信サイトの活用
できるだけ早く、信頼性の高い情報を収集・発信するには動画配信サイトの併用も有効だ。震災直後、NHKでは、ユーストリームをはじめ動画配信サービスに番組をインターネットで中継する許可を出し、被災地のライブ映像が、世界中でインターネットを通して配信された。 震災から約2週間が過ぎた頃、原発事故の影響により放射能汚染の不安の渦中にいた福島県南相馬市の市長は、テレビ局ではなく、2011年3月24日「南相馬市からのSOS−福島原発事故の近接地」と題したビデオをユーチューブに投稿し救援を求めた。

危機発生後だけではない!
日常からのSNS利用で事業継続力を高める

SNSを日常の業務に取り入れておけば危機発生時においても有効なコミュニケーションツールになる可能性が高い。普段からSNSの使用を業務に積極的に取り入れている事例を海外も含めて紹介する。

■都道府県や地方自治SNSが急増


震災以降、埼玉県北本市では、市役所のホームページを、フェイスブックとミクシィ上に開設した。また、佐賀県武雄市では市のホームページをフェイスブック上に移行するなど、都道府県や地方自治体が既存のSNS上に新たにグループを開設し、地域における危機についての情報を発信し始めている(写真4)。これらのSNSに参加すれば、行政から発信された情報は自動的に自分のフェイスブック上にも掲載され、その情報についてコメントすることもできる。行政側にとっては、市民からの反響をリアルタイムで確認できるというメリットもある。 
さらに、都道府県や地方自治体が運営する地域防災SNSも全国的に広がりを見せている。2011年9月に兵庫県姫路市が開設したSNS「ひょこむ」(写真4)は、市の防災対策を掲載している。こうした地域コミュニティは、現在400以上(2011年5月19日現在)もあると言われている。 

より災害対応や事業継続に対応したソーシャルネットワークを求めるならば、コンサルティング会社などが運営するコミュニティを活用することもできる。事業継続におけるコンサルティング業務を行う富士通総研が運用する「BCEXPERT」(事業継続エキスパート)では、会員同士の情報交換や危機管理に関するセミナー情報などを共有する取組が行われている。

■海外企業との連絡手段に使え
危機発生後、言葉も文化も異なる海外サプライヤーと、十分な計画やコミュニケーションなしに、突然、連絡を取り合うことは難しい。メール連絡1つにしても外国語で書くには時間を要するし、せっかく書いたメールも事前にチェックしていなければ本来伝えたい意図とは異なり、相手の誤解を招くような可能性もある。普段から、現地特有のリスクやその対応策について、海外サプライヤーや現地の危機管理の専門家とコミュニケーションを取ることが必要だ。

海外の法人や専門家との情報交換において効果を発揮する各地域で強力なメディアパワーを持つソーシャルメディアは数多く存在する。利用者数が世界最大のSNSであるフェイスブックに加え、インドやブラジルでフェイスブック以上に高いシェアを持つGoogle社が開発したSNSの「Orkut(オーカット)。中国では、政府の政策としてフェイスブック」のアクセスが禁止されているため「人人網(レンレンワァン)」が圧倒的なシェアを持つ。一方、事業継続に特化したソーシャルネットワークとしては、英国BCIのウェブサイトがある。現在、100カ国以上の国々の危機管理担当者や専門家が7000人以上登録している。 

しかし、世界的規模でBCPの分野で最も広く利用されているのは、米国発のビジネスに特化したSNSのLinkedIn(リンクトイン)だ。サイト内にある危機管理に関するグループコミュニティは、他のSNSと比較して圧倒的に多く、各グループの参加人数にしても1万人以上超えるものも少なくない。