2019/10/23
セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
もうひとつの再発防止策
ところで、今回の再発防止策には、「ANA全就航空港」と「全委託先警備会社」への項目しかありません。セキュリティ関係者は乗せる側だけではなく、乗る側の搭乗旅客も含まれます。そこで「旅客への啓蒙、セキュリティ意識の植え付け」という項目も再発防止策に必要となってきます。自身が飛行機内でテロをしようと考えてナイフを持ってくる訳ではなくても、悪意を持った人間にそのナイフが渡ってしまえば、それでハイジャックされてしまう危険もあります。今回の伊丹空港の旅客は、「自分はこのナイフで悪さをしようとは思っていないから持って行って大丈夫」と自身のことしか考えていなかったのではないでしょうか。万一そのナイフが奪われれば、自身を含む機内全員の命が危険にさらされることになるなんて、露ほどにも思っていなかったはずです。
お客様に負荷をかけたくないからということではセキュリティの徹底はできません。「誰のためにセキュリティ対策をやっているのか」ということを旅客自身に自覚してもらい、検査に協力させていく、これは航空セキュリティを向上させるために必要不可欠な項目です。ただし、これを徹底することは民間企業の航空会社だけでは難しいということも理解しています。
ということで、ここからはひとり言ですが…。
この事案が起きたときには、ラグビーワールドカップの開催に伴いセキュリティ対策の強化が日本中の空港でスタートしていました。国を挙げてセキュリティを強化しなければならない状況では、国が保安検査に対してよりリーダーシップを発揮すべきです。今回の事案ではANAが再発防止策を打ち出し、その徹底を約束しました。保安検査の責任組織は航空会社となっていますから当たり前のことです。
しかし、お客様に対して強く言えない強く出れない民間企業が保安検査の責任主体のまま、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えても良いのでしょうか? 国の威信をかけた大規模イベントがやってきます(ラグビーワールドカップはすでにやってきてしまっていますが)。国の責任においてセキュリティを徹底し、何かあれば国が全力で対応するという方向に航空分野も向かってほしいものです。万が一の時、民間組織がとれる対応は限られてしまいますが、なぜか、日本はずっと航空会社が航空保安の責任組織なのです。不思議ですよね。
(了)
セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~の他の記事
- ダメなものはダメ、伊丹のナイフ騒動
- 危険人物抑止にバックグラウンドチェック
- バックグラウンドチェックで危険関係者排除
- 緊急事態に遭遇(2)病気の単語
- 緊急事態に遭遇、その時あなたの判断は
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方