2019/09/24
本気で実践する災害食
モノについての問題点
質問は次の6問です。
・飲食物の備蓄に関する内容
・発災直後の調理場の状態
・ライフラインの停止状態
・発災直後に提供した飲食物の内容
・職員の飲食物の備蓄は必要か
・水と食べ物の救援物資は届いたか
具体的に見ていきましょう。
食べ物の備蓄率が55%、飲み物の備蓄率が65%でした。食べ物の内容は主食、魚・肉のおかずに偏り、野菜のおかずの備蓄率は32%で極めて低いものでした。主食、魚・肉のおかずに比べると約半分程度で軽視されていました。「野菜は畑にあるから備蓄しなくていい」という答えもあり野菜の備蓄率が極めて低い点は今後の課題です。畑にあっても火山の噴火、原子力発電所の事故など大気汚染もないとは言えません。そもそも水道の停止で野菜が洗えないため料理しにくくなるはずですし、楽観しすぎではないでしょうか。
なぜ備蓄しないのか、理由を尋ねました(表)。
食べ物と飲み物の無記入施設に対して、なぜ備蓄をしないのかその理由 自由記述(94施設中14施設が記入、原文通り)
福祉施設の中には通院施設、給食を自分の施設内で作らず外部に委託している施設がありますが、両者とも備蓄がありませんでした。これは大問題です。備蓄がないのはおかしくないですか? 少なくとも災害時のために自分の施設で備蓄すべきです。
職員用の備蓄率は30%と低いのですが、職員は飲まず食わずというわけにはいかないので、この備蓄は必要不可欠です。
発災直後1日目の1食分の食事はどうでしょうか? その内容は、ご飯と1品のおかず、もしくはおかずなしで粗末なものでした。主食だけ備蓄し、おかずが要ることに気が付かなかったというのんきな答えもありました。災害が来るとは思っていなかったのではないでしょうか。問題は施設に十分な備蓄がなかったためでしょう。
では、行政からの救援物資はこうした福祉施設に届くのかといえば、「届かない」という答えでした。市が災害時にここに避難するよう呼びかけている重要な施設であるにもかかわらず、救援物資が届かないというのはどう考えてもまともとは言いにくいでしょう。中には、近くの避難所である小学校に届いた救援物資のおこぼれをこっそりもらいに行ったという記述もありました。そして多くの施設は関連の団体から支援物資として届けられた飲食物に依存したというのが実態です(次号で詳述)。
熊本地震の場合、強い地震(1回目M6.5、2回目M7.3)であったため、福祉雛所におけるライフライン停止は、電気、ガス、水道ののうち水道が最も高く51%、停止期間は7日と14日が半々でした。井戸水を頼りにしていましたが、水が濁り使用困難で不自由しました。
以下に、ライフラインの停止状態を示しました(表)。
発災後のライフラインの停止と復旧状況
地震の場合、調理場の混乱は調理を困難にしますが、損壊の状況はどうだったのでしょうか(表)。
発災直後の調理場の状態
調理場の冷蔵庫の固定は36%で、極めて低いものでした。調理場の損壊を最小限に抑えられなかったのは人災で、日頃から器具類を固定し、災害時の混乱を最低限に抑える気構えと準備が不足していたといえるでしょう。災害と一口にいっても人災に当たる部分がないように十分な構えをしたいものです。
指定避難所(一般市民)の備蓄状況と比較すると、本結果はまずまずと言えます。しかし、施設に常時居住者が滞在する関係上、災害発生時に「残念ながら本施設にはご飯はありません」と入居者を追い出すことはできません。それどころか、さらに地域から受け入れなくてはいけません。そうした使命感が福祉施設には必要で、100%の水準で備蓄することが今後さらに望まれます。
最後に「福祉避難所としてぜひ伝えたいことはなんですか」(自由記述)の回答をお伝えします。
(了)
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