2016/09/29
誌面情報 vol56
不祥事対応における風評発生メカニズム
そもそも企業不祥事の発生の要因と構造は、「制度・ルール上の問題」「経営方針・リーダーシップ上の問題」「ビジネスモデル・商慣習上の問題」「社風・価値観・統制環境上の問題」の4領域に分けられ、個々の領域に属する多様な要因
が因果や相関の関係で生起し、不祥事発生のカウントダウンが始まります。この負の連鎖を上手く断ち切らないと、風評はどんどん悪化していきます。それでもリスクマネジメント局面のうわさであれば、ある程度風評のマーケットサイズは小さいかもしれません。ただし、実際にクライシスにまで至ったら、事態の“拡大”を防止しなければならないと同時に、悪い風評の“拡大”も阻止しなければなりません。それらの“拡大”の要因と構造は、「情報収集上の問題」「組織態勢上の問題」「心構え上の問題」「対応実施上の問題」「開示・説明・会見上の問題」の5領域に分けられ、これまた各領域の要因が密接に関わり、循環していますので、全てに上手く対応しないとクライシス対応は失敗します。リスクマネジメ
ントとクライシスマネジメントの両プロセスにおける上掲9領域の各構成要因をチェックシートのようにご活用いただき、風評の発生とその拡大の阻止にお役立ていただければと思います。
なぜ不祥事が止まらない
そこで不祥事がなぜ止まらないかを考えてみたいと思います。時間軸で考えると各種制度や施策にも限界があると見ています。風評というものを超越した、単なる風評では片付けられない、その企業の体質的な問題です。例えば、ある企業で数年前に一度不祥事を起こした。その反省から再発防止対策も採り、ガバナンス、コンプライアンス、内部統制を整えた。それにしたがっていろんなルールや規定、マニュアルも作った。ところが、また新たな不祥事を起こしてしまう。そこで再度、ガバナンスの強化が足りなかった、コンプライアンスが徹底していなかった、内部統制が浸透していなかったと振り返るわけです。それでもまた、数年後に不祥事を起こすかもしれないのです。
本来クライシスマネジメントは被害・損害の拡大防止と事態の早期収束化を図るための管理手法です。しかし、何度も不祥事を繰り返していると反省と学習能力のない企業と見られ、「やはり体質的な問題があるのではないか」と見なされます。そうなると、ガバナンスやコンプライアンス、内部統制も表向きのPRに過ぎないのではないかという風評の固定化にまで至ります。つまり、体質は変わらないと。
これらの再発防止や改善の施策が組織に浸透せず、実効性を持たなかったため不祥事が起きる(再発する)。このプロセスを時系列で見ていくと、実は複数の“ある時点”で発見された問題やリスクが無視された、チェックが見逃された、内部監査が未報告だった、内部通報が等閑視された、報告が非共有だった、マニュアルが形骸化していた、ルールが無視された、事実確認していながらそれを隠蔽した等々と様々な、導入施策と正反対の対応をしてしまうケースが散見されるのです。タイミング的には何度も予兆を発見できたはずなのに、スルーされたり、タ
ブー視され、結局不祥事が発生してしまう。ここで「風評のダム」が決壊してしまうわけです。また、例えば、小火が頻発していた工場で爆発事故が起きたとなると、予兆を見逃していたので確実に人災です。事故ではあるけれども不祥事
です。このようにリスク情報が報告・共有されなかったり、内部通報制度が機能しないなどということになると内部告発に至ってしまいます。もう1つの問題はコンプライアンスの一社完結性という神話にあります。リスク分散やリスク回避
はリスクマネジメントの1つの手法ですが、それを親会社や子会社、主要な取り引き先に任せて、完全に移転(丸投げ)するのは無責任極まりありません。
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