日本の外なる脅威は本当にあるのか

その2<日本の仮想敵国はどこにあるのか>(半藤一利)

「憲法を改正して軍をつくるとなったとき、まず必要になるのが仮想敵国の設定でしょう。
軍備はただ増やせばいいというものではない。『世界の警察』をもって自任するアメリカはともかく、どこの国であれ、それぞれ仮想敵国を設定して、それに見合った軍備を整え、訓練を行っています。戦前の日本であれば、陸軍はロシア、海軍はアメリカが仮想敵国でした。強国2つが仮想敵国とは、なんと強気かと驚かれるかもしれませんが、事実そうだったのです。
さて、それではこれから日本に軍隊をつくるとして、我々はどこを軍隊を整備する上での仮想敵国とするのでしょうか。
東西冷戦の時代なら、ソビエトを仮想敵国としておけばよかったでしょう。実際、陸上自衛隊ではソビエト軍の北海道上陸を阻止するためとして、最初に北部方面隊が置かれました。
しかし、今の時代にまさか本土上陸作戦を決行してくる軍隊がいるとは思えない。少なくとも、ロシア軍が北海道に上陸してくることは考えにくい。
そこで多くの方々が考える仮想敵国は、当面のところまずは北朝鮮でしょう。実際に、北朝鮮は核実験やミサイル実験などで軍事的挑発を続けており、もし北朝鮮が武力行使に踏み切るとすれば、日本がターゲットの筆頭となるに違いありません。
しかし、忘れてならないのは、北朝鮮にさしたる海軍がないことです。つまり、北朝鮮が本格的な日本上陸作戦を行ってくる可能性はゼロです。つまりここでは軍隊の大々的な整備よりも、ミサイル防衛システムの整備、あるいは外交努力の方が重要になります。
また、軍事大国化していく中国についても、脅威を感じている方は多いはずです。
しかし、中国を正式な仮想敵国として軍備を拡張するには、とてつもない予算が必要になります。それに日本と中国は経済的結びつきが強く、戦争などどちらにとってもメリットはありません。特に、現在の中国では貧富の格差が拡大し、それこそ国内を抑えることで精一杯なのです。
中華思想の彼らですから、尊大な態度をとってくることはあるでしょうが、経済関係を無視してまで戦争をしてくることは、まずありません。領土的野心のないのはもちろんです。
そう考えると、日本の仮想敵国はどこになるのでしょう。はっきり言ってしまえば、ないのです。(引用者:「ないのです!」)
北朝鮮や中国を仮想敵国としたところで、それは空中楼閣に向かって鉄砲を撃つようなもの。まったく税金のムダになります。
憲法改正の議論も、別に結構なことでしょう。若いみなさんがこの国の行き先を決めていくのが一番です。
ただ、『あいつらはどうも危なっかしい』と空中楼閣を描く前に、まずは北朝鮮なり中国なりの国情を徹底的に調べ上げるべきです。
太平洋戦争の当時、日本人はありもしない空中楼閣を描き、『きっと大丈夫だろう』『きっと今度もうまくいく』『いや、大丈夫に違いない』と主観的な希望だけでもって突き進み、大きな失敗をしました。(中略)。もう何度も同じ失敗を繰り返す必要はないのです」。

謝辞:「日本人と愛国心」(半藤一利・戸高一成、PHP文庫)から引用させていただいた。心から謝意を表したい。

(つづく)