「全く予期しない大波が突然船を襲い、クライシスのときが来る……人間の境遇が本来的に孤立無援なものであることが明らかになる瞬間である」

               ―エドガー・アラン・ポー(1833)『MS. Found in a Bottle』


地震のシナリオ パート1 真夜中 あなたの寝室
激しい振動があなたを快眠から揺さぶり起こす。あなたは目を開ける。真っ暗闇で全く音はしないがまだ寝室にいる。突然マットレスが持ち上げられて波のように揺れ動く。あなたを揺さぶって起こした狂人が戻ってくる。あなたのベッドの下でここぞとばかり激しく蹴って突き上げる。雷鳴とポップコーンのはじける音と、花火の音の全てが同時に来たような騒音で耳がふさがれる。れんがの建物同士を擦り合わせているような擦過音もする。しばらくすると揺れは収まりベッドから落ちる。寝室は前後に激しく揺さぶられておりランプや写真立てが棚から落ちて割れるのが聞こえる。

災害は多様である

あなたは一つの世界で眠りに落ちて、もう一つの世界で目覚める。
大災害の発災の数分間を経験した人の話では、カオスに突き落とされるような不思議な感覚を持ったとのことである。映画の中にいるような、あるいは上方から自分たちを見下ろしているような非現実の感覚を持った人もいる。

それは全てが異なるからである。この地震のシナリオでは、秩序だったなじみのある現実から、それ以外の全てである新しい現実へ投げ出される。この新しい現実は、日々の生活のテーマが異なるというだけではない。早送りの時間であるというのでもなく、日常生活の対極にあるものである。災害は本質的に異なる、かけ離れた、相入れないものである……。

それはパラレルな宇宙である。

いつかパラレルな世界にいる自分を発見するであろう。喜ばしいのは生き延びるために驚異的に働く必要はないということである。

地震のシナリオ パート2 真夜中 あなたの寝室
あなたはよろめきながら居間に入り、這いまわって祖母の頑丈なコーヒーテーブルの下に潜り込む。頭を保護するように手を上げてテーブルの底板に押し付ける。2階が崩れ落ちてもその圧力に持ちこたえてほしい。何トンものがれきの下に埋まってしまったら、救助されるのだろうか?

永遠に続くと思われる騒音と震動の中で横たわる。10秒、20秒、そして30秒が過ぎる。あなたの人生で最も長い30秒である。もう終わりだと思い始める。そしてそのとき、それは終わる。