さらなる訓練


注文書や請求書など企業間取引に必要なデータのやりとりを、情報通信技術を使って自動的に処理するEDI (Electronic Data Interchange)は、今や製造業や流通業のビジネスを支える重要なインフラの1つとなっている。日用品や化粧品などを中心に消費財業界の1000社を超える企業にEDIサービスを提供する㈱プラネット(東京都港区)は、東日本大震災後も、BCP(事業継続計画)の強化に力を入れている。



■EDIは情報インフラ
プラネットは、日用品・化粧品業界における流通システムを最適化するために、企業間のデータ交換の共通化を目的として、ライオンやユニ・チャーム、資生堂など大手メーカー8社と通信会社インテックの出資により設立されたEDIサービスを専門とする会社だ。



同社では、1985年の電気通信事業法の施行に伴い、通信が自由化された翌年の86年からEDIサービスを提供してきた。EDIとは、受発注・出荷・請求・支払いなど24種類に及ぶ商取引に必要な各種情報を、企業間のコンピュータがネットワークを介して自動的に電子データを交換すること。従来の紙伝票や明細書をEDIデータに置き換えることで、郵送代や用紙代などのコストカットが可能になるほか、入力ミスの防止や取引業務のスピードアップも図ることができる。現在では、メーカーや卸売業、資材サプライヤー(原材料・梱包資材メーカー)1000社以上が同社のEDIサービスを利用している。そのデータ量は伝票に換算すると毎月平均して1億行を超え、消費財業界にとって必要不可欠なシステムとなっている。




■BCPを強化


そのためプラネットでは、災害対策など緊急事態における事業継続を目的に、2004年からBCPのプロジェクトを立ち上げるなど、早い段階から積極的にBCPに取り組んできた。具体的には、首都圏に2台、大阪に1台のサーバを置き、EDIのシステムを日常的に3重化し、万が一システムに障害が起きたことを想定したバックアップシステムへの接続の切り替え訓練も定期的に、ユーザー企業も含めて実施してきた。2011年8月には、クラウド・コンピューティングを採用した新しいシステムに入れ替え、ディザスタリカバリ(災害復旧)機能をさらに向上させた。




■今回の対応と課題


東日本大震災ではシステムやネットワークの被災はなく、安否確認などについても比較的スムーズに行うことができたという。同社代表取締役社長の玉生弘昌氏は「日頃からのBCPの取り組みが、東日本大震災では、功を奏しました」と話す。震災が発生した3月11日、同社では、幕張で開催されていた大きなイベントに参加していたため、玉生社長をはじめ、社員の約半数が本社に不在だった。「幕張周辺は液状化の問題もあり、街が人であふれ早期に本社に戻ることは難しい状態でした」玉(生氏)。



一方、本社では、社内に残っていた各部門のリーダーが中心となって社員の安否確認や震災の情報収集などに尽力した。



「震災前の2010年から、災害対策マニュアルを作成するにあたり、社長や役員をはじめ、各部署のリーダーが何度も議論したため、震災が発生した時になにをすべきか、みな頭でわかっていました」と同社システム部長の山本浩氏は話す。



実際の震災を通して見直すべき点も明らかとなった。社員の安否確認は、それまで安否確認システムに100%頼り切っていた。しかし、実際の対応では、安否確認システムからの連絡が遅れ、あまり活用できなかった。そ

のため、同社では、安否確認システムだけでなく、携帯電話による通話やメールも含めたあらゆる通信手段を利用するよう、マニュアルを見直した。



昨年12月16日に、同社は、首都直下地震などによる大規模災害の発生を想定した障害対応訓練を行った。 



東日本大震災の教訓を生かし、ユーザー企業1082社(メーカー406社・卸売業466社・資材サプライヤー210社)の緊急連絡先(1296人)への一斉同報連絡網の作動を確認した。さらに、ディザスタリカバリシステムの起動手順の確認も行った。BCPを日常的な組織文化に落とし込むには訓練を繰り返し行うしかない。玉生社長は「大規模災害で多くの企業が被災しても、消費財業界全体の業務継続を担う同社はサービスを中断することは一時も許されない。BCPは、インフラ企業の使命」と話している。