2016/05/20
スーパー豪雨にどう備える?
2004年7月13日、新潟県中越地域を大規模な集中豪雨が襲い、五十嵐川や刈谷田川など6河川で11カ所が破堤、洪水や崖崩れが多数発生する記録的な災害が発生した。通称「7.13水害」と呼ばれるもので、新潟県内だけで死者15人、建物全壊70棟、半壊5700棟、その他床上・床下浸水が8000棟以上に及んだ。中でも三条市は死者9人、建物の被害棟数が1万985棟に達するなど、甚大な被害が出た。新潟県では、2011年7月にも大雨により信濃川水系の6つの河川で堤防の決壊が相次ぎ、三条市を含む広範囲で浸水被害が発生し、5人の死者が出ている。多発する水害に自治体はどう対策を講じているのか、三条市、見附市、新潟県の対応を取材した。
三条市では、7.13水害の経験を教訓に、翌年から「三条市水害対応マニュアル」の策定に取り組んだ。当時は、市の職員を含め、市民、企業、関係組織の人々が、災害発生時にどう行動するのか、行動にどう優先順位をつけるのか、などが不明確だったとの反省が背景にある。
「ポイントは、誰がどういう行動をとるかを明確にしたことです。自助(市民)共助、(自主防災組織・民生委・員消防団・自治会)、公助(消防を含む市職員)とに分けて、とるべき行動をきめ細かくマニュアル化しました。災害発生時には、各自が自分たちの行動基準に従って行動できるようになりました」と市総務部行政課防災対策室主事の岡田了氏は説明する。
今年6月22日、同マニュアルに基づいた水害対応総合防災訓練が行われた。7.13水害の翌年から実施しているもので、行政だけではなく、市民や企業も参加。マニュアルを机上の計画としてではなく、確実に実行できるように体得することが目的だ。市民には市の広報などで訓練実施を知らせ、全戸配布している「三条市豪雨災害対応ガイドブック」の確認を呼びかけた。土のう作りには、水害で7.13被害を受けたコロナなど五十嵐川沿いに拠点を持つ企業4社が参加。参加者には災害の発生時刻や場所、規模などは事前に知らせず、防災担当者が発表する状況の推移に対応して、マニュアルに沿って柔軟に災害対応活動が行えるかを検証した。
ハザードマップは「行動指南型」
全戸に配られる「三条市豪雨災害対応ガイドブック」は、A4版46ページの小冊子で、「気づきマップ」「逃げどきマップ」「浸水想定区域」「土砂災害危険箇所図」の4種類の「行動指南型のハザードマップ」になっている。
最大の特長は、それぞれのマップで自分の住んでいる地区の特性が確認でき、避難するか自宅に留まるべきか、どのようなタイミングで避難すべきかなど、住民が自ら考え、意思決定できるように「逃げどきの判定フロー」がついていること。
「逃げどきマップ」を見ると、信濃川や五十嵐川、刈谷田川が決壊したときに、自宅がどのような状況(浸水状態)になるかが確認でき、自宅の構造や階数に応じて、浸水前と浸水後でとるべき避難行動が地区ごとに細かく示されている。 3つの川については、「河川ごとに市が配布体制をとる基準水位や、いつ避難勧告を出すかの基準が決められています。浸水してからの自宅滞在が困難な地域は早めの避難が重要ですが、ハザードマップで色分けして示すだけだと、避難場所に向かって水の中を避難するのが普通といったイメージが刷り込まれてしまいます。水の中を水平避難するより、自宅の2階以上に留まる方が安全という場合もあります。市民の皆様には普段からお住まいの地域の災害特性を把握するとともに、自ら積極的な情報収集を心掛け、適切な避難行動をとることが重要だと訴えています」(岡田氏)。
ガイドブックの表紙には、「これだけはおさえてほしい三ケ条、最重要!」と題して下記の項目が記されている。
第一条:洪水災害や土砂災害には、早めの避難が重要
第二条:災害・避難情報は、待つことなく、自ら積極的に収集
第三条:犠牲者ゼロには、地域の力が不可欠
特に注目したいのが第二条で、補足として「避難勧告や避難指示などの災害・避難情報は確実に伝わってくるとは限りません。自ら積極的に情報収集を行い、自らの意志で行動しましょう」と防災における自助の重要性に言及している。
スーパー豪雨にどう備える?の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方