「リスク対策.com」VOL.45 2014年9月掲載記事

タイムラインを導入した大規模訓練を実施

2012年に米国東部を襲ったハリケーン・サンディの対策で注目を集めたタイムライン(事前防災行動計画)を導入し、豪雨に備えている自治体がある。奈良県中央に位置し、日本最古の都城、藤原宮跡など歴史的遺産が点在する橿原市だ。豪雨の危険性が高まると、時系列に沿って事前の対策をとり、被害情報を収集・共有しながら各部局間で連携し対応に当たる。今年7月には、タイムラインを導入した初の大規模訓練を実施し、その実効性を検証した。

奈良盆地の南端に位置し、市街地を取り囲むように豊かな田園風景が広がる橿原市。人口は約12万5000人と奈良県では奈良市に次ぐ規模で、かつては持統天皇が飛鳥から京を遷した藤原京があった地だ。 

橿原市は2006年度に橿原市地震防災対策アクションプログラムを策定し、10年計画で防災対策を精力的に強化している。これまでに防災マニュアルや洪水ハザードマップを策定し、災害対応の組織構成を大幅に変更した。 

市では昨年11月に、風水害対策のためのワーキンググループを立ち上げ、橿原市版タイムラインの策定に動き出した。 

タイムライン(事前防災行動計画)とは、台風などのあらかじめ発生が想定できる災害に対し、被害が発生すると考えられる数日前から発生した後の対応まで、さまざまな関連する組織が何をしなくてはいけないかを時間軸で整理した行動計画表。2012年10月に巨大ハリケーン「サンディ」に襲われたニュージャージー州はタイムラインに沿って対応し、被害を効果的に減少できたという。この成果を踏まえ、今年4月に国土交通省の水災害に関する防災・減災対策本部がタイムライン策定を促す提言を発表した。橿原市の防災対策強化に協力している京都大学防災研究所の林春男教授は「予知できない地震と違い、台風の動向は数日前から分かる。事前に関係機関で調整し、先手を打って対応することで被害を最小化できるのがタイムラインだ」と語る。

3段階のレベルで対応取り決め 
橿原市の風水害におけるタイムラインは、大型台風の接近や大雨の恐れがあると初動レベル1となり、約15人の職員が参集して情報収集などを行い風水害に備える。大雨・洪水注意報等の発表があり災害発生の恐れが生じると初動レベル2に上げ、約50人が参集する。さらに大雨・洪水警報等があり、河川が氾濫注意水位まで増水し、災害の発生が高まると初動レベル3になり約100人の職員が対応にあたる。 

レベルごとに、活動すべき内容と、担当する部局、参集する職員、部としての対応拠点が決められており、全体の活動の実行体制がひと目で分かるようにまとめられている。 

例えば、初動レベル2では、災害対策本部事務局の資源管理班が参集職員を把握。同統括本部班では、気象情報の取集・分析、対応レベルの検討・伝達、防災情報の周知、消防活動の開始に当たる。特別な配慮が必要な人には、福祉救援部の統括班と要援護者支援班が対応に当たり、避難支援・学校部の避難所班が避難所を開設するといった内容になっている。

本番と隣り合わせの訓練

今年7月10日に行われた訓練では、初動レベル3からスタートした。まず、タイムラインに沿って各部局の職員が被害現場や避難所、関係機関などから情報収集し対応を始め、続いて被害状況と対応策を集約した「とりまとめ報」を作成。各部局がこの「とりまとめ報」を持ち寄り、部局横断的な対応について調整会議で協議しながら、優先業務を決定。調整会議で整理された報告をもとに第1回本部会議を開き、本部長の森下豊市長が対策の指示を行う流れだ。 

訓練が行われた当日は、「7月の台風では最強レベル」と言われ、気象庁が沖縄県に対し暴風、波浪、大雨、高潮の特別警報を発表した台風8号が勢力を落としながらも近づいていた時期。橿原市の危機管理課・防災係の山本知巳係長は接近する台風の状況によっては訓練を取りやめ本番に切り換える可能性を伝え、続いて、災害対策本部本部長である森下豊市長が訓練上の災害対応の方針を発表し、訓練が始まった。示した方針は要約すると以下の4点だ。

<方針>
・タイムラインに沿って台風の接近に備える
・市民の避難の受け入れ準備を進める
・災害応急活動を円滑に行うため関係部局が情報共有に努める
・市民や関係機関への的確な情報提供を行う

会場では、第1回対策本部会議に向け約100人の参加者が動き出した。想定したのは2013年に京都府福知山市で由良川の氾濫を引き起こし、京都市嵐山では桂川から堤防を越えて水が住宅地に流れ込むなど近畿地方を中心に大きな被害を出した台風18号クラスの大型台風だ。