都市ガス事業者が考えたい調達策の複線化

LPガス事業の場合は、通常供給を受けている系列の仕入先からの供給が中断した場合でも、長期にわたりLPGシリンダーが供給されないという事態は考えにくい。先に紹介した軒下在庫に加え、LPGシリンダーを製造する充填所は約2,200も存在する。加えて約340の充填所が災害時にもLPGシリンダーへの充填を継続することができる中核充填所として指定され、非常用発電設備、緊急用通信設備、LPG車など緊急時の充填業務継続に必要な備品が整備されている。このような基盤整備が行われていることにより、LPガス事業者は緊急時でも系列を超えた供給などの対応がスムーズに行える。

一方都市ガスは、製造工場からの供給は導管や鉄道貨車などで行われる性質上、日頃供給を受けている事業者以外から供給を受けることが難しい。これは、分散型エネルギーであるLPガスに比べ、ガスの製造拠点から需要家までの導管網の整備に多額の費用を要する都市ガスの事業性質上やむを得ないと考えられてきた。しかし、天然ガスの調達を複線化するための投資が災害復旧時にも有効に機能した事例がある。

前号でも紹介した通り、東日本大震災の際、仙台市ガス局は沿岸部に立地する港工場が津波により甚大な被害を受け、358,781戸への供給を停止したが、供給再開作業は最大で54日間で完了した。この迅速な復旧を可能にした要因の1つがガス調達策の複線化である。

仙台市ガス局が調達するガスのうち7割は海外からのLNGタンカーにより港工場へ直接輸送されていたが、3割は新潟のガス受入れ基地から、新潟仙台間のガスパイプラインを経由して輸送されていた。この仕組みが震災時の供給再開に大きな役割を果たした。仙台市ガス局災害対策本部の港工場復旧班は、2011年3月16日以降、パイプラインを経由して供給された天然ガスを原料とした製造供給設備の復旧に全力を傾注し、3月23日時点でガスの受入れと送出を再開した。この港工場におけるLPGタンカーの受入れ再開は同年11月29日となったことを考えると、仮にガスパイプラインが整備されていなかったとしたら、仙台市ガス局のガス供給の再開は54日間という短期間では成し遂げることはできなかったものと推測することができる。

2015年1月に発表された総合資源エネルギー調査会基本政策分科会ガスシステム改革小委員会の報告書によれば、今後のわが国においては、都市ガスを需要家に販売するガス小売り事業は基本的に自由化する方向が示された。また、ガスを小売事業者に供給するガス導管事業については、その託送にあたっての価格決定を透明化するなど、競争原理を働かせることで、より安価なエネルギー利用を実現する方針が明確となってきている。この中では、導管の延伸やガス導管網の事業者間接続を促進することも明記されており、各地域のガス導管網同士の相互接続や現在ローリーや鉄道貨車で輸送されるガスを仕入れて供給している事業者の導管網をパイプラインによりLNG基地と接続するなどの対策は、災害時のガス供給の強靭性を向上するために有効な施策であるとされている。

今後、国の後押しを受けた民間事業者による導管延長や新たなLNG基地の新設などの動きが加速すると予測されることを踏まえ、自社のガス調達についても導管による調達や複数事業者からの調達を行うなど複線化を図ることが事業継続の観点からも望まれる。

なお、これらには相当の資金を要することを考えると、今後は、供給区域が近接する都市ガス事業者が事業を統合する対応や、中小事業者をより大規模な事業者が吸収合併する対応などを通じて、事業規模を拡大し、もって供給の安定性を確保しようとする動きは加速するものと考える。

(了)