都市ガス事業者の業界団体である日本ガス協会も全国を7ブロックに分けてそれぞれ部会を設置していることを考えると、事業者団体と地元放送局が連携することで、中小事業者による供給区域においても、マスコミを通じた告知を行うことができるような仕組みを形成することは可能だと考える。各地で事業者とマスコミの間で、担当者の顔がお互いに分かるような関係を構築しておくことは、緊急時の広報を円滑に進める上で重要である。

次にお客さまからの照会に対する対応体制だが、代表番号には電話が殺到することになる。これまでのガス業における対応例としては、電話対応にあたる従業員をシフトで配置するとともに、複数の電話回線を確保しておく対応を検討する事例が多い。ただ、顧客から聞き取るべき情報はある程度定型化できることを考えると、外部のコールセンター事業者と連携して、特設のコールセンターを設置する対応も検討に値すると考える。既にリコールや情報漏えいなどで緊急にコールセンターを開設するサービスを提供している事業者が存在する。これらの事業者に電話対応を委託することができれば、現場での顧客対応に投入する自社従業員の数を増やすこともできる。

最後に、供給保安体制については、都市ガス、LPガスを問わず各社の導管管理や製造を担当している部門は毎日の業務が実戦そのものであり、従業員の技量に関しては問題ないと考えられる。ただ、災害などの緊急事態においては点検を要する箇所が膨大となることから、その対応にあたる戦力をどのように増強するかが問題となる。

供給保安関連の業務に従事することができる従業員は、どこの部署に配属されていようとも、直ちにあらかじめ定められた箇所に出頭し、供給保安上必要な点検確認にあたる仕組みを作ることが望ましい。あるいは、普段供給保安関連の業務を行っている従業員とそれ以外の従業員をペアにして、業務にあたらせる方法もある。いずれにせよ緊急時の戦力増強のためには、お客さま対応と供給保安以外を担当する部署については可能な限り業務を中断し、支援要員をお客様対応と供給保安に動員する仕組みを構築したうえで、支援要員となる従業員に対しては必要な教育や訓練を行うことが重要である。

なお、LPガス業特有の初動対応として、LPGシリンダーの回収がある。東日本大震災時の津波のように強い流れを伴う水害の場合は、LPGシリンダーがお客さまの敷地内から流出することがある。このような事態はめったに起こる事態ではないが、仮に発生した場合は、発災直後からLPGシリンダーの回収に取り組まなければならないことになる。中のLPガスが流出すると、火災発生に直結するためである。

既に都道府県LPガス協会単位で流出容器の対応に関する要綱が定められていると思われるが、各事業者においてはこの要綱の趣旨に沿って、従業員が対応できるように事前の準備が必要である。

 ※ガス業とは…日本標準産業分類において、ガス業には「一般の需要に応じ製造ガス、天然ガス又はこれらの混合ガスを導管により供給する事業所、一定数量以上の需要に応じて導管によりガスの供給を行う事業所、及び自らが維持し運用する一定規模以上の導管でガスの供給を行う事業所が分類される」とされている。