2016/09/02
業種別BCPのあり方
大学の初動対応
大学が事業継続を確実にしていくためには、緊急時における初動対応を確実に進めることが重要である。仮に構成員の死傷や施設・設備などの被害が生じた場合は、その後の取り組みに大きく影響するからである。被害状況を早急に精査し、被害拡大を阻止するために必要な手立てを講じなければならない。初動対応の主な項目としては、避難誘導救出、安否確認、帰宅困難者対応などが挙げられる。大学特有の事情を考慮しながら解説する。
①避難誘導救出
学生数に対して、教職員の数は圧倒的に少ない。一例として、東京に本拠地を持つ私立E大学は6つのキャンパスを保有しているが、中でも最大のキャンパスに在籍する学生数は7学部3研究科あわせて約1万1000人であるのに対して、このキャンパスに所属する正規の教職員数は500人弱、非正規の教員は1000人強である。
もちろん学生が全員キャンパス内にいるわけではないが、それは教員も同じである。特に、非正規の教員(いわゆる非常勤講師)は、複数の大学を掛け持ちしている事例もあり、大学が定めた個別のキャンパスごとの初動対応に習熟していないこともある。
加えて、大学内の校舎は数多く、点検確認も容易ではない。筆者が経験した事例として、常勤非常勤あわせて10人に満たない施設職員が在籍するキャンパス内に、複数の学部と研究科があわせて約10の建屋を保有しており、避難誘導や被害確認の手順作成に難渋したことがある。
対応策としては、大学の構成員を可能な限り行動の担い手に巻き込んでいくことが有効である。例えば、学内で防災関連のサークルがあるのであれば、そのサークルと連携しながら避難や救助の訓練を大学構成員に広げていくことも有効だろう。新宿と八王子にキャンパスを持つF大学では、毎年秋に発災時の諸対応、学生などの安否確認、災害対策本部における情報集約などの大規模防災訓練を行っており、地域の傷病者にも対応する訓練が重ねられている。
前述の点検対象が多いにも関わらず、施設職員数が少ない大学への支援の際は、学内の他部署の職員と施設職員をペアにすることで、被害確認に回る要員数を増やした。一般職員からは、被害確認に不安の声が上がったが、被害確認ルートや被害確認のポイントを明確化したチェックリストを作成することで、職員の不安感の低減を図った。
②安否確認
学生数と教職員数のアンバランスは、学生及び教職員の安否確認にも影響する。東日本大震災以前は、被害を受けた学生は自分で名乗り出てくるべきであって、大学から安否確認する必要はないという意見を大学職員から伺ったこともあったが、震災後はこのような意見を聞くことは無くなった。獨協大学岡部ゼミの調査によれば、東京都内の130大学のうち、公式WEBページを通じて在校生に安否報告を求めていた大学は101校に達する。このことは、大学として安否確認が思うように進まなかったことを意味していると考える。なお、この調査では、首都圏25大学の学生448人に対して、大学に安否報告を行ったかという質問も行ったが、約9割の学生が行っていないという結果だった。
上記の結果から、できれば導入したいのは、安否確認システムである。確かに緊急時には安否確認システムからのメールが到着しないなどのトラブルが発生することもあるようだが、構成員の数が圧倒的に多い分、この安否確認システムによる安否確認情報の整理集計機能の威力は非常に大きなものがある。パソコンで表を作ってというような意見も若干あるようだが、入力者に大きな負担がかかり、間違いが起きやすい上に、入力後の情報の活用がしづらい。
安否確認は、単に情報収集すれば足りるのではなく、その後分析し、必要な人間に配布して、活用することが必要である。そのためにも、安否確認システムのようなシステムを活用することで、収集や整理といったプロセスはある程度省力化し、その後の分析、配布、活用のプロセスに人手を集中することを考えたい。
一方で、単に安否確認システムを導入しているだけでは、効果は発揮できない。前回紹介したC大学の事例のように、学生にポケット版マニュアルを配布するなどの取り組みをあわせて行うことが重要である。
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