③避難所の開設
「避難所」と呼ばれる施設には2つの意味合いがある。危険にさらされた人々が逃げ込むための一時避難施設としての意味と、自宅での生活が困難になった人々が自宅の代わりに一定期間生活する場としての意味(以下、収容避難所)である。避難所に指定されている大学も数多いが、「広域避難場所」「一時避難場所」などの名称で指定されているのは前者を意味する。大学が自主的に構内を開設する避難場所として開放する場合も前者の意味で考えられていることが多いだろう。 

収容避難所は、災害救助法に基づき、自治体が開設し、運営することが原則であるが、自治体によっては、地域防災計画上、地域社会に運営を委ねているケースもある。 

仮に何の指定も受けていない大学であっても、命からがら逃げこんでくる人々の入構を拒否することはできないであろう。ただ、収容避難所開設の準備がない大学は長期の避難生活に適した環境とはいいがたい。早急に収容避難所に移動してもらう方が本人たちにとっても良い結果につながる可能性が高い。 

収容避難所への移動をスムーズに進めるために大事なのは、学内関係者向けの一時待機施設と学外からの避難者向けの一時待機施設を分けることである。学内関係者に対しては、大学職員の指示が通りやすく、比較的統制が取れることが多いが、学外からの避難者は多様であり、管理は難しいためである。 

学内関係者の一時待機施設については、状況が許すのであれば、なるべく早く帰宅させ、施設自体も収束させる。また、学外からの避難者についても、早い段階で収容避難所への移動を促すことが大事である。 

収容避難所としての指定を受けている大学においては、収容避難所の開設から運営までの各手順について、ソフトとハードの準備をするとともに、近隣住民や学内関係者の理解と協力を醸成することで、事務職員が住民対応のみに忙殺される事態を可能な限り避ける努力をしておくことを勧める。相当長期間にわたって近隣の住民が構内で避難生活を続けたB大学では、相当数の要員を住民対応に振り分けることになり、その後の対応にも支障を生じたことは前回紹介した通りである。

緊急時の課題解決プロセス 
緊急時の組織に重要な課題として、3つの明確化を挙げることがある。つまり、①目的と達成するために必要な行動の明確化、②今優先するべき課題の明確化、③誰がどの役割を受け持つのかの明確化である。 

この中で、大学にとって難しい課題になりうるのは、誰がどの役割を受け持つのかの明確化、中でも最終決定権の所在である。大学の組織図を見ると、学校法人としての組織(事務組織)と教育機関としての組織(教育組織)が分けて記述されていることが多い。事務組織のトップは理事長、教育組織のトップは学長とそれぞれ別の人間が務めていることもある。普段はよく話し合ったうえで決める時間があるが、緊急時にはその余裕がない。 

このような場合は、一旦対策本部に権限を集約することが原則である。対策本部長の権限とその代行順位は、大学ごとの事情に応じて、確実に決めておくことが望まれる。ただ、それだけでは組織は機能しない。対策本部設置後は、普段の組織に関わらず、対策本部長が置かれた状況に応じて適宜柔軟に要員配置を見直し、権限移譲を行うことが有効である。