熱中症対策に必要なのは水分補給と・・??(※画像はイメージです。画像:photo AC)

初夏とはいえ時には夏以上に暑くなる事もあります。中澤さん(44才男性、仮名)は朝から同僚とともに倉庫内で商品の整理をしていました。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年5月25日号(Vol.48)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2017年5月24日)。

気温はさほど暑くないのですが倉庫内は風通しが悪く蒸し蒸しとしています。同僚の1人が「めまいがする…」と訴えてうずくまり、そばにいた中澤さんが駆け寄って声をかけました。「どうした?」同僚は「気分が悪い…吐き気がする…」と訴えています。

中澤さんは同僚を横にし、ABCDE(F)アプローチ(本誌3月号Vol.48号P95参照)で評価を試みます。発語はあり気道(A)は開通しています。(B)呼吸は速いですが(呼吸数:24回/分)、しっかりできているようです。脈・循環(C)もしっかり触れます。受け答えはできているので意識(D)は問題ないようです。全身を観察(E)すると、顔が紅潮して大量の汗をかき、身体を触るととても熱く感じます。一体何が起こったのでしょう?我々は何をすればよいのでしょう?!

いかなる時でも急病人が発生したらABCDE(F)アプローチです。中澤さんの評価では、この同僚の方は体温が高く「Eの異常」があります。その原因は状況から考えると熱中症を疑います。

熱中症とは? 

熱中症には、熱失神(めまいや立ちくらみ)、熱けいれん(いわゆる、こむら返り)、熱疲労(気分不良や倦怠感)、熱射病(意識障害やけいれんを伴う最重症)などいくつかのタイプがありますが、これらには明確な線引きがあるわけではなく、実際にはオーバーラップも多いのでまとめて熱中症と考えても差し支えありません。軽い症状(例:ふらつきやこむら返りのみ)で熱けいれんや熱疲労だと考えていても迅速に適切な処置がなされないと悪化することもあるので注意が必要です。熱中症は致死的な状態であり油断は禁物です。

初期対応について 

熱中症への初期対応で重要なポイントは2つです

–発症初期には重症かどうかがわからない(後で悪化することがある)。
–合併症率や死亡率は高体温の時間による(いかに早く体温を下げるかで運命が決まる)。

まず冷却!とにかく冷却!それから搬送

会社の医務室に連絡し救急車も呼ばなければいけませんが、一刻を争う緊急事態ですので「まず冷却!次に搬送!」です。体温が高いままだと救急搬送を依頼している間にもどんどん病状は悪化していきます。搬送のために冷却を遅らせてはいけません。

氷の水風呂という治療 

もっとも効果的な冷却方法は「氷の水風呂に患者を浸す」という治療です。場所や道具、人手もかかりますが、実際に有効な方法です。以下手順を示します。(Cold-water immersion:The gold standard for exertional heat stroke treatment. Exerciseand Sports Science Reviews.2007;35:141.より改変)

1.応援を呼んで、すぐに救急車を呼ぶ(誰かに呼びに行かせる)
2.ABCDE(F)アプローチを行う
3.ここからは「体温を下げること」のみに専念する
4.患者を日陰の涼しい場所に移動させる
5.子ども用プールなどに半分まで水を入れ水面を氷で覆い尽くす
6.患者の全身を氷水に浸す(不可能であれば体幹を優先)
7.患者の頭は常に水面上に保つ(胸の前からタオルで腋の下を固定する)
8.氷水に浸したタオルを頭と首に当てる
9.水温は15℃以下に保つ(氷を追加し、水を激しくかき混ぜて循環させる)
10.この方法では3~5分毎に体温が1℃下がるので患者を10~15分間浸する

その他の方法 

「氷の水風呂に浸す」のが難しい場合は以下の方法を試してみましょう。

–バケツに入った氷水と12枚のタオルを用意し、氷水に浸した6枚のタオルで身体を覆います。2~3分で次の6枚のタオルと交換、これを繰り返します。
–シャワーやホースで冷水を身体にかけ続ける。
–氷はあるが浴槽やプールがない場合はタープやシーツで患者を大量の氷ごと包みこみ、氷が溶けたら適宜補充、交換します。
–脱衣させ全身の皮膚に水かぬるま湯を霧吹きし、扇風機で風を当てます。
–氷のうや冷タオルを太い血管のそば(首、腋の下、足の付け根)に当てます。