廣井准教授(左奥)は、人の密度が急上昇する一斉帰宅の危険性を説明した

東京都は20日、主に企業の担当者を対象とした「一斉帰宅抑制に伴う事業所運営の模擬体験セミナー」を新宿区の都庁で開催した。法人向けに帰宅困難者対策における人材育成を目的とした都によるセミナーは初めて。47法人から56人が参加し、ゲーム感覚でできる一斉帰宅抑制のための図上訓練を行った。

東京大学大学院工学系研究科准教授の廣井悠氏とSOMPOリスクマネジメントが協力。従業員約200人の企業の付近で最大震度6強の地震が起こった想定。参加者は10チームに分かれ、社員の出勤状況や鉄道のストップ、備蓄の状況も含めた状況の把握をしたうえで、従業員の滞留方針などを決定。さらに「帰宅を望む従業員が発生する」といった、発災後に予想されるイベントが次から次へとカードで配布され、それらへの対応を話し合って決めた。最後に気づいたことを模造紙にまとめ、気づきの共有を行った。

廣井氏は訓練開始にあたり、「首都直下地震で600万人が一斉に災害時に帰宅すれば、都内のいたるところで1m2あたり6人以上の密集地が発生する」と説明。電話ボックス程度の広さである1m2あたり6人は、死者11人を出した2001年に起きた兵庫県明石市の歩道橋事故の一歩手前の密度で、一斉帰宅の抑制を訴えた。SOMPOリスクマネジメントのBCMコンサルティング部企業第1グループ主任コンサルタントの宮田桜子氏は「帰宅したいという理由の主なものは家族の心配」と指摘し、普段から災害時の家族間の安否確認について話し合うよう呼びかけた。

東京都帰宅困難者対策条例では、災害時の一斉帰宅によって起こる救助の妨げや二次災害を防止するため、職場などにとどまるほか、企業による3日分の備蓄などを努力義務としている。この訓練を開催した都総務局では、参加者が各企業にノウハウを持ち帰り活用することを期待しているという。なお、この日の訓練の基となった図上訓練ツール「KUG(企業内滞留版)」は、廣井研究室のホームページからダウンロードが可能となっている。

■KUG(企業内滞留版)
http://www.u-hiroi.net/KUG2_ver1.5.zip

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介