WGの福和主査(左奥)から山本担当相に報告書が手渡された

内閣府を中心とした政府の中央防災会議は25日、「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応のあり方について」と題した報告書を公表し、手交式を実施。報告書の検討・とりまとめを行った中央防災会議のワーキンググループ(WG)の福和伸夫主査(名古屋大学教授・減災連携研究センター長)から山本順三・防災担当大臣に手渡された。M(マグニチュード)8.0以上の地震が起こった際は、被害がなかった地域でも続く地震に備えて津波の危険のあるエリアから1週間避難することなど、南海トラフ沿いで地震など最初の異常が起こった際の対応方針を記した。政府では地方自治体や企業の防災対応に役立てるためのガイドライン(指針)を2019年度にも策定する予定。

南海トラフ地震については30年以内にM8~9クラスの発生確率が70~80%と予想。想定される死者数は何も対策がなされていない場合は最悪約32万3000人、対策後でも約6万1000人とされている。報告書では南海トラフ沿いでの最初の異常について(1)「半割れ」と言われるM8.0以上の地震(2)「一部割れ」と言われるM7.0以上8.0未満の地震(3)「ゆっくりすべり」と言われるプレート境界面ですべりがあり、ひずみが計測できる―の3つのケースに分類した。

「半割れ」の場合、まだ地震の被害のないエリアでも今後津波の被害が見込まれる地域の住民のうち、後発地震後の避難では明らかに間に合わない住民は、最初の地震発生後1週間は避難するべきだとした。避難を検討すべき対象地域は30cm以上の浸水が地震発生から30分以内に生じる地域を基本とする。企業も出火防止など施設の安全措置や従業員の避難などのほか、事前のデータのバックアップなどの対応を呼びかけ。一時的に企業活動が低下しても、万が一後発地震が起こった際に早期復旧できる備えをとるべきだとした。また土砂災害については、現時点でリスクが高い地域を絞り込むのが困難としつつも、土砂災害の不安のある住民はあらかじめ親類宅などへの避難の検討が望ましいとした。

「一部割れ」「ゆっくりすべり」の場合は新たな地震に備え警戒レベルを上げ、特に「一部割れ」の場合は異常があってから1週間は特に警戒すべき期間に設定。必要に応じ住民は自主的な避難も実施し、企業もデータのバックアップなどで備えておくべきだとした。

今後、政府では地方自治体や企業の防災対応の検討を促すためのガイドラインを2019年度にも策定する予定。内閣府で行われた手交式で、山本防災担当相は「当面の答えを出すことができ、感謝したい。報告書をふまえガイドライン策定など具体的な取り組みにつなげる」と語った。福和主査は手交式後に記者会見に応じ、報告書について「いくつかのジレンマがある中、様々な地域や企業などとの議論の末(4月からの9カ月間という)短期間でまとめることができた」と振り返った。ガイドラインについては「肝となるものは早めに示した方がいい」とし、2019年度には方向性を決めるべきだとした。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介