2018/12/25
防災・危機管理ニュース
内閣府を中心とした政府の中央防災会議は25日、「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応のあり方について」と題した報告書を公表し、手交式を実施。報告書の検討・とりまとめを行った中央防災会議のワーキンググループ(WG)の福和伸夫主査(名古屋大学教授・減災連携研究センター長)から山本順三・防災担当大臣に手渡された。M(マグニチュード)8.0以上の地震が起こった際は、被害がなかった地域でも続く地震に備えて津波の危険のあるエリアから1週間避難することなど、南海トラフ沿いで地震など最初の異常が起こった際の対応方針を記した。政府では地方自治体や企業の防災対応に役立てるためのガイドライン(指針)を2019年度にも策定する予定。
南海トラフ地震については30年以内にM8~9クラスの発生確率が70~80%と予想。想定される死者数は何も対策がなされていない場合は最悪約32万3000人、対策後でも約6万1000人とされている。報告書では南海トラフ沿いでの最初の異常について(1)「半割れ」と言われるM8.0以上の地震(2)「一部割れ」と言われるM7.0以上8.0未満の地震(3)「ゆっくりすべり」と言われるプレート境界面ですべりがあり、ひずみが計測できる―の3つのケースに分類した。
「半割れ」の場合、まだ地震の被害のないエリアでも今後津波の被害が見込まれる地域の住民のうち、後発地震後の避難では明らかに間に合わない住民は、最初の地震発生後1週間は避難するべきだとした。避難を検討すべき対象地域は30cm以上の浸水が地震発生から30分以内に生じる地域を基本とする。企業も出火防止など施設の安全措置や従業員の避難などのほか、事前のデータのバックアップなどの対応を呼びかけ。一時的に企業活動が低下しても、万が一後発地震が起こった際に早期復旧できる備えをとるべきだとした。また土砂災害については、現時点でリスクが高い地域を絞り込むのが困難としつつも、土砂災害の不安のある住民はあらかじめ親類宅などへの避難の検討が望ましいとした。
「一部割れ」「ゆっくりすべり」の場合は新たな地震に備え警戒レベルを上げ、特に「一部割れ」の場合は異常があってから1週間は特に警戒すべき期間に設定。必要に応じ住民は自主的な避難も実施し、企業もデータのバックアップなどで備えておくべきだとした。
今後、政府では地方自治体や企業の防災対応の検討を促すためのガイドラインを2019年度にも策定する予定。内閣府で行われた手交式で、山本防災担当相は「当面の答えを出すことができ、感謝したい。報告書をふまえガイドライン策定など具体的な取り組みにつなげる」と語った。福和主査は手交式後に記者会見に応じ、報告書について「いくつかのジレンマがある中、様々な地域や企業などとの議論の末(4月からの9カ月間という)短期間でまとめることができた」と振り返った。ガイドラインについては「肝となるものは早めに示した方がいい」とし、2019年度には方向性を決めるべきだとした。
■関連記事
集中・効率化に歯止め、災害備え変革を
http://www.risktaisaku.com/articles/-/13826
南海トラフ、後発地震備え1週間避難も
http://www.risktaisaku.com/articles/-/13572
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方