2018/12/10
安心、それが最大の敵だ
Q:NYTは有料のデジタル購読が好調です。
A:我々の様な伝統的メディアは大きな変革の時を迎えています。重要なことは、いずれデジタルだけの報道機関になるときが来る、という事実を受け止めなければならないということです。すぐに時が来るのか、まだ先かと聞かれれば、まだ先だと思います。紙で新聞を読むために多くのお金を払っている熱心な読者が100万人いるのですから。ただ、ずっとそうだというわけではないのです。私たちはデジタル優先のメディアにならなければならないということを受け入れました。
デジタルは急速に伸びており、300万人近いデジタルだけの有料読者がいます。デジタルの広告収入は規模が小さく、野心的なジャーナリズムを支えることは出来ません。購読者から収益を支えとするビジネスモデルに変えることで、この会社で働く全員がジャーナリズムの使命のもと一丸となりました。読者は中身の濃い報道にお金を払い、そのお金で私たちは使命を果たすことが出来るという良い環境生み出すことが出来ます。
<私見>新聞のデジタル化は避けて通れない道であろう。日本の新聞各紙の対応は大幅に遅れている。
Q:メディアへの信頼低下は各種の世論調査でも表れています。
A:信頼が揺らいでいるだけではなく、左右への2極化も進んでいます。背景には、一部の権力者や力のある機関がメディアをおとしめようとしていることがあります。メディアに監視されるのを嫌い、意図的にあおっているのです。
同じような考えの人の話だけを聞くという傾向が社会全体で強まっていると思います。これは非常に問題があります。メディアにはこうした状況を押し返す責務があります。まともな報道機関であれば、世界を理解するのに資する報道を心がける必要があるでしょう。私たちは多様性のあるスタッフによる幅広い知見や分析を提供するよう心がけています。オピニオン面では読者が必ずしも共感しない意見も掲載しています。
Q:信頼低下の責任はメディアの側にもありますか。
A:もちろんあります。ジャーナリズムとは何なのか、社会でどんな役割を果たしているのかうまく説明できませんでした。記事を書く時はただ書くだけではありません。その場に行き、人の話を聞くなどの作業を行います。記事が出るまでにどんな努力があるのか読者には分かりにくかった。こうした点を表に出し、なぜ私たちが提供する情報が信頼できるのか伝えていくことも大事です。
<私見>サルツバーガー氏の危機感に異論の余地はない。
Q:NYTやワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルといった全国紙が世界で購読者を得る一方で、米国内の地方紙は苦境にあります。
A:ディーン・バゲーNYT編集主幹が、地方紙の衰退はこの時代最大の危機の一つだと述べました。その通りです。私はロードアイランド州やオレゴン州の地方紙で働いたことがあります。地方紙が地域社会を結びつける接着剤として、権力に説明責任を果たさせるメカニズムとしてどれほど重要かを直接見てきました。これは全国紙と地方紙のゼロサム・ゲームではありません。地方紙が才能ある記者を切り捨てるのを見るのは本当につらい。私たちの社会を脆弱にします。社会全体でどうすべきかを考えなければなりません。
<私見>地方紙の衰退はこの時代最大の危機の一つ、全く同感である。日本でも衰退の傾向である。
Q:オーナー一族の出身ですが、発行人になるのは最初から決まっていたのですか。
A:大学時代にすばらしいジャーナリズムの教授と出会い、記者の道を志しました。記者という仕事は、法的に許された大人の最高の楽しみだと思いませんか。一日に半分は世界について学び、人に話を聞き、物事を理解するために使う。残りの半分でそれを伝える努力をする。地方紙で仕事を始めて半年ではまりました。この会社でも地方で記者をして、とても楽しかったのですが、連れ戻されました。今では私自身が書き続けるのではなく、偉大な記者たちが仕事をしやすくするための環境を整えるのが自分に託された仕事だと考えるようになりました。
<私見>御曹司の矜持と責任感である。どこかの「七光り」の政治家とは雲泥の差である。
NYTはアメリカの優れた報道に与えられるピュリツアー賞を最多の125も受賞している。今年はセクハラや性暴力の被害者が声をあげる「#MeToo」につながる調査報道などで受賞した。2009年赤字のため大幅な人員削減に踏み切った。そんな中、2011年にデジタル版の有料化を実施し注目された。現在NYTの紙の発行部数は100万部を割り込んでいる一方、多様なデジタル購読者は2015年に100万を突破し、300万に届こうとしている。
謝辞:朝日新聞のメディアの明日を論じる優れた企画記事を引用させていただいた。謝意を表したい。
(つづく)
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