米国メディア、トランプ大統領に対抗、一斉に立ち上がる
言論と報道の自由は死守すべきである

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2018/11/05
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
「新聞なき政府か、政府なき新聞か。いずれかを選べと迫られたら、ためらわず後者を選ぶ」。米国の<建国の父>で第3代大統領、報道の自由や人権を定めた憲法修正条項(権利章典)の生みの親トーマス・ジェファーソンのよく知られた言葉である。「言論と報道の自由」は権利章典の第1条が掲げる米国文明の魂である。原点である(ジェファーソンには別の側面があることを歴史は伝える。彼は奴隷の女性との間の隠し子スキャンダルを追及する新聞がよほど憎らしかったのか、その後新聞批判を強めた)。彼は奴隷制に反対しながら、大農場で多くの黒人奴隷を使役していた。黒白矛盾した面のある自由主義者ジェファーソンだった。これは200年も前の話である。
今日、米トランプ大統領は、主要なメディアを「国民の敵」と断じ、共和党の重鎮からも「独裁者はそうやって物事を始めるものだ」と非難される有様だ。報道官の懇談から一部のメディアを締め出し、記者会恒例の夕食会の欠席を表明するなど対決姿勢を崩さない。だがその昔建国の父の醜聞にも迫った米国メディアの方も腰砕けではない。この先、トランプ大統領は安定した政権運営は望んでも得られなくなろう。新聞・TVをインチキ呼ばわりし、自由を守る闘いを侮っては大統領も長くはつとまるまい。
「ジャーナリズムの役割は権力を監視し、真実を追求することである」との真理は洋の東西においても永遠に不変である。
ついに米国のメディアがスクラムを組んで立ち上がった。記念すべき日が来た。
「朝日新聞」(2018年8月18日付)から引用する。
<批判的なメディアは「国民の敵」>(見出し)
自らに批判的なメディアを「国民の敵(The enemy of the people)と執拗に攻撃するトランプ米大統領に対抗しようと、米国の多くの新聞が(8月)16日、報道の自由を訴える社説を一斉に掲げた。だが反発するトランプ氏は改めてメディアを批判した。民主主義の基本である「報道の自由」を軽視する最高権力者の姿勢は、米国民のメディア観にも影響を与えている。(トランプ大統領は米国の知識階級に属するのだろうか?)。
<トランプ節に対抗、米紙一斉に社説>
〇報道の自由掲げ400紙が賛同(小見出し)
一斉社説の取り組みは、有力紙ボストン・グローブの論説委員室が呼びかけた。同社によると、週刊誌など今後の掲載も含めて400紙以上が賛同しているという。「報道の自由」を共通のテーマとして、各社がそれぞれ書いた。ボストン・グローブ紙は「記者は敵ではない」と題し、「自由な報道機関を国営メディアに置き換えるのが、あらゆる腐敗した政権がまず着手することだ」「米国の偉大さは、権力者に真実を突きつける自由な報道機関に支えられている」などと訴えた。
同紙でオピニオンなどを扱うアイディア部のアレックス・キングスバリー副部長は朝日新聞の取材に、「各社で歩調を合わせて社説を掲げることで、米国民に対して『民主主義にとって報道の自由は大切だ』と伝えたかった」と語った。他社からの反響は大きいという。「米国の記者の多くが、メディアを敵と位置付ける大統領の言動を強く警戒していることを示した」。
今回の取り組みには、地方の主要紙であるダラス・モーニング・ニュース、デンバー・ポストなどの他、小規模な新聞も多く加わった。賛同したニューヨーク・タイムズは「気に入らない事実を『フェイク(偽)ニュース』とするのは民主主義の源泉を脅かす。記者を『国民の敵』と呼ぶのは危険の一語に尽きる」などと記した。
新聞各社のアピールを、米政界も後押しした。米上院は16日、「報道機関は国民の敵ではない」などとする決議を、与野党問わず全会一致で採択した。ただ他の有力紙であるワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルは参加しなかった。新聞各社が連携することで、トランプ氏や支持者が「不正直な報道機関に不当に批判されている」と受け止める恐れがあり、対立をあおるトランプ氏の思惑にはまってしまう、との見方もある。独立性を守るためと参加しなかった社もあった。ワシントン・ポストは「組織的な取り組みには加わらない」と同調しなかった理由を説明した。
〇すぐに本人反論、追随する世論も(小見出し)
新聞各社の一斉社説に対し、トランプ氏は16日朝、ツイッターで激しく反論した。「(ボストン)グローブが他の新聞となれ合いをしている」「フェイクニュースのメディアは野党だ。我々の偉大な国にとってとても良くない。だが我々は勝ちつつある」。
自らの姿勢に異議を唱える存在を、ひとくくりに「国民の敵」とみなす。民主主義の否定に等しい発言だ。トランプ氏とメディアの対立は2016年の大統領選期間から続いている。
女性差別や移民などへの不寛容な発言を繰り返す同氏を、米紙は多くは批判的に報道した。ネットメディア「ビジネス・インサイダー」によると、大統領選では240紙以上が対立候補だったクリントン氏を支持した。トランプ氏を支持したのは19紙に過ぎなかった。
トランプ氏の「エスタブリッシュメント(既得権層)」「エリート」批判は、メディアに対しても重ねられた。大統領に就任した後は、大手紙ニューヨーク・タイムズやCNNなど自身を批判的に報じる報道機関に「フェイクニュース」とのレッテルを貼って逆襲した。昨年2月には「フェイクニュースのメディアは米国民の敵だ」とツイートした。
トランプ氏の攻撃は、米国民のメディア観にも次第に影響を与えつつある。調査会社イソップが8月7日発表した世論調査の結果によると、調査対象の85%が「米国の民主主義のために報道の自由は不可欠だ」と答える一方、「ほとんどの報道機関が公正な報道を心がけている」としたのは46%にとどまった。
「報道機関は米国民の敵だ」と考える人は、共和党支持者で48%にのぼる。「大統領は悪い行いをした報道機関を閉鎖する権限を持つべきだ」との回答も26%あった。
敵意が、記者に向けられるようにもなった。7月末にフロリダ州タンパで行われたトランプ氏の集会では、大勢の支持者がCNNの記者に罵声を浴びせた。この記者は今月2日のホワイトハウスの記者会見でサンダース報道官に「報道機関は国民の敵ではないと認めて欲しい」と迫ったが回答は得られず、会見場から退出した。
報道機関側は、こうした風潮が記者への身体的な危害などにつながりかねないと懸念を深める。ボストンのテレビ局などによると、ボストン・グローブ社に爆弾予告があったという。ツイッターでは、一斉社説への賛否の書き込みが相次いだ。「報道の自由」というハッシュタグ(#FreePress)がついた投稿は「メディアは権力や不正と闘っている」「国民の敵ではない」と擁護。一方、「国民の敵」というハッシュタグ(#EnemyofThePeople)を含む投稿の多くは「オバマ(前政権)支持者が政権を転覆させようとしている」などと否定的だった。
<参考>
・主な社説
ボストン・グローブ(マサチューセッツ州)「米国の偉大さは権力者にも真実を突きつける自由な報道機関によって支えられている」
ニューヨーク・タイムズ(ニューヨーク州)「(メディアが)良い仕事をしたと思ったら彼らを褒めてあげて。改善できると思うなら批判して」
ダラス・モーニング・ニュース(テキサス州)「報道の信頼性を傷つけることで、権力者が民衆の監視なしにより強い決定力を得ることになるのは危険だ」
デンバー・ポスト(コロラド州)「記者たちは真実を追求して日々を過ごしている。記事に込められているには政治的意図ではなく、伝えたいという願望だ」
・トランプ大統領の主なツイート(16日朝)
「フェイクニュースのメディアは野党だ。我々の偉大な国にとってとても良くない。・・・だが我々は勝ちつつある」
「(ボストン)グローブが他の新聞と報道の自由に関してなれ合いをしている」
「本当の報道の自由以上に、我々の国のために私が欲しいものはない。実際は、報道は何を書いても言ってもいいが、大部分はフェイクニュースだ」
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方