【第1回】平成30年の相次ぐ災害から見えたもの
「寝耳に水」の被災地のテレビ局

伊永 勉
1995年の阪神・淡路大震災での西宮ボランティアネットワーク設立を契機に、日本災害救援ボランティアネットワークを結成。その後、2011年の東日本大震災など、国内外の地震・津波、風水害での災害救援コーディネータとしての多くの実践と、災害・防災関連機関の所長などを歴任し、2013年にADI災害研究所所長に就任。災害ボランティアに関する書籍なども多く出版。テレビのコメンテーターとしても出演。
2018/10/10
北海道胆振東部地震と相次ぐ台風
伊永 勉
1995年の阪神・淡路大震災での西宮ボランティアネットワーク設立を契機に、日本災害救援ボランティアネットワークを結成。その後、2011年の東日本大震災など、国内外の地震・津波、風水害での災害救援コーディネータとしての多くの実践と、災害・防災関連機関の所長などを歴任し、2013年にADI災害研究所所長に就任。災害ボランティアに関する書籍なども多く出版。テレビのコメンテーターとしても出演。
6月18日朝8時前に発生した震度6弱の地震は、大阪市民には「根耳に水」状態の大パニックを起こした。私も大阪市民なので、南海トラフが動いたと思ったが、揺れが十数秒だったので、今後は上町断層だと思い、「ついに来たか」いう心境だった。
地震の30分後に関西エリアの某テレビ局の防災担当の記者からの電話で、「電車が止まって動けないので、すぐに局に行って欲しい」と言ってきた。地震の報道をしたいが、局に居るスタッフでは心配とのこと、平成11年からこの局の防災番組で解説を続けてきており、みんなが知っているからということだ。
局に到着して困ったのは、報道局のある7階までエレベータが動かないこと。テレビ局の構造上天井が高く、7階といっても13階分の高さはある。私の歳ではきつい。一度上がったら降りたくない。このまま午後7時まで付き合うことになったのだが、おかげで被災地の真ん中にあるテレビ局の実態をじっくり見せてもらうことが出来た。
報道部は、幸い早朝のニュースを担当するアナウンサーと朝番のディレクターが、決められた地震報道の手順で、交代要員のないまま延々と頑張っている。通常100人は居る室内は、20人程しかいない。しかも時間ごとの番組プロデューサーや放送作家、編成の管理職がまだ揃っていない。車中に閉じ込められているとか、タクシーを待っていても来ないなど、携帯電話で連絡は来るが、昨夜からの泊組と、早く着いた社員やバイトの女性たちが、誰ともない指示に動き回っている。
報道部は天井壁面のモニターで全テレビ局の画面が一斉に見える。NHKやライバル局の今の放送を比較しながら、今居るスタッフが、これからこの局としての災害報道の方向を考えなければいけないということだ。
気の利いた女性のADがコンビニに走って、あるだけのおにぎりやパンを買ってきた。私が関わっている問題は、午後4時から2時間生放送の報道番組の組み立てだ。報道部長から、ご協力をお願いという挨拶を受けたが、月曜日の当番ディレクターの到着は午後3時ごろとのこと。
もちろん、ゲストコメンテーターは東京からは来れない。被災地に飛び込む取材カメラと記者が足らないため、一番インパクトのある取材先を選ばなければならないが、府庁も市役所も消防も被害の全容がつかめておらず、電話では要領を得ない。後でわかったことだが、大阪府や市では2時間後でも職員は半数近く来ていなかった。
もう一つのニュースソースである、市民からのSNSの書き込みを探りながら、取材対象を記者に電話で指示するが、行ってみたら誤報や取材拒否と空振りが続く、昼ごろ各テレビ局の画面が、新御堂の橋を歩いて渡る大勢の人の列を映している。要するにどこかが取材するとか、トピックスが入ったら、みんな飛びつくということだ。視聴者がどこのテレビを見ても同じ絵ばかりと批判するのはもっともだが、これしか放送できないのだ。
その中で、他にはない独自のニュースソースを探し、報道番組としてのプライドを保てる台本を作らなければならない。通常は、曜日でチーム編成されているが、この時のように欠員が出ると、その場に居るスタッフで班をつくることになるる。
社員だけでは人手不足なため、外注への期待が高まるのだが、制作会社とかプロダクションのメンバーは結構機転が利き、やりがいを感じて、ここが勝負と張り切っている。わからない専門用語や地震の基礎知識など、どんどん聞きに来る。
何度もテーマと台本を書き直し、必要なテロップやフリップを作り直し、本番の1時間前に台本がまとまった。後は出演するアナウンサーとコメンテーターが揃うのを待つのだが、メンバーが足らない。
コメントは私と局の解説員の2人ですることになり、出演メンバーが揃ったのは、本番15分前というぶっつけ本番になった。ところで、番組では途中で東京のキー局と交互に放送するのだが、正直に言うと被災地と外野の温度差がある。
東京からわざわざ取材クルーを派遣して、知名度の高いアナウンサーを登場させているが、内容は既に地元で放送したものと変わりない。ローカル局の使命は、被災者への的確な情報提供だ。
キー局はどうしても被害の大きさを強調し、倒れたブロック塀に固執する。地元の局には次々と市民からお電話が掛かってくる。視聴者には地元局とキー局の違いが分からないのだろうが、通れる道はどこかとか、いつ電車は動くのかとか、テレビ局は何でも知っていると思われている。
確かに、全て知っておくべきとは思う。L字表示やDボタンによる案内も、行政からの通知情報しかできないのは、今後の災害報道の課題だ。被災地になったテレビ局の使命は、被災者に寄り添える体制と、スタッフ全員の報道マンとしての使命感はもちろんだが、非常時の取材対象を吟味できる模擬訓練が大切なことを、身に染みて知った。
(続く)
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