地区防災計画の成果と課題を共有

共通課題は 「避難行動要支援者」「住民意識の向上・担い手確保」「予算の確保」

内閣府は3月12日、第3回国連防災世界会議の1周年を記念して行われた「仙台防災未来フォーラム2016」のテーマセッションとして「地区防災計画フォーラム」を仙台市内で開催した。2014年度に創設された「地区防災計画制度」を活用して防災活動に取り組む地域の代表者が、それぞれの活動を報告することで、得られた成果や課題を広く共有してもらうことが目的。当日は、今年度の内閣府地区防災モデル事業に選定された20地区の代表者が、4つのテーマのパネルディスカッションのパネリストとして登壇し意見を交わした。

パネルディスカッションのテーマは、①津波にどう立ち向かうか、②高齢化社会の中で災害にどう立ち向かうか、③地域住民・企業にどのように防災意識を持ってもらうか、④地域で進めるべき防災とは何かの4つ。

津波にどう立ち向かう

最初のパネルディスカッション「津波にどう立ち向かうか」では、東日本大震災で地区内の大部分が浸水し、近くに高台や津波避難ビルがない避難困難区域に指定されている宮城県石巻市の「上釜地区」と、同じ地区にありながら福井県と石川県の海岸線沿いの県境をまたがって位置する「吉崎地区」、企業との連携により工場の屋上を地域の避難場所にして防災活動に取り組んでいる徳島県鳴門市の「大塚製薬工場と周辺自主防災会」、南海トラフ地震では大きな津波被害が想定されている高知県高知市の「下知地区」、同じく南海トラフ地震で津波被害が想定されている宮崎県日向市の「長江区」の代表者がそれぞれパネリストとして登壇した。

このうち、上釜地区、下知地区、日向地区は、近くに高台などの避難場所がない「特定避難困難地域」に指定されている。各地区からは実際の津波を想定した避難訓練など活動の状況が報告され、「いかに高齢者や子どもたちを安全に避難させられるか」避難行動要支援者の迅速で安全な確保などが共通の課題とされた。上釜地区の井上達彦さんは、「要援護者を支援するにしても、高台まで車いすで上げるとなると1人に対して4~5人がいないと一緒に逃げるのは難しい。地域住民に対しても“あなたは誰々を支援してくれ”と責任を押し付けることは難しく、理想と現実のギャップが大きい」と指摘した。

吉崎地区の末富攻さんは、地域住民の意識の向上や予算の確保について言及した。「地域には防災計画立てられる人もいない。そんな状況で、これから、どれだけ住民の意識を持ち上げていけるか分からない。今避難所となっている学校は休校することが決まっており、廃校になって取り壊されたら新たな場所の確保も必要になる」と厳しい現状を訴えた。下知地区(高知県高知市)からも、「まちづくり活動をしていくには予算があまりに足りなすぎる」との意見が出された。

一方、地区防災計画制度の特色を生かした取り組みもあった。福井県と石川県にまたがる吉崎地区からは、日本海沖地震の津波想定が、石川県は高さ最大8.1m・浸水高は最大8.2m、福井県側は最大5.4m・浸水2mと異なっているという課題がある中で、地区防災計画制度を活用して、県境をまたいだ自主防災会と連携しながら勉強会や防災マップづくり、避難訓練などに取り組んでいるという活動が報告された。また、大塚製薬工場と周辺自主防災会からは、企業から、工場の屋上を地域の避難場所として提供してもらっており地域住民600人が避難できるよう協定も結んでいるとの報告があった。地区防災計画制度では、地域居住者だけでなく事業者の参画も期待されているが、同社は地元からの雇用も多いため、地域住民を守ることは企業の活動そのものを支えることになり、企業にも住民にもそれぞれメリットがあると報告された。

共通の課題と解決策

このほかのパネルディスカッションでも、同様に、「避難行動要支援者への支援」「住民意識の向上・活動の担い手の確保」「予算の確保」といった課題が相次いだが、こうした課題の解決にヒントとなりそうな事例もあった。

避難行動要支援者への取り組みについては、静岡県伊豆市の修善寺ニュータウンの谷村彦太郎さんが「民間の有料老人ホームと防災協定を結び、日中なら地域の高齢者を収容してもらい、逆に夜間は人がいないので、何かあったら地域が老人ホームを支援する」という相互助け合いの取り組みを発表した。この地域では別荘地も多く、誰が住んでいるかもわからないため、地元の温泉組合などと連携し情報が共有できるようにしたり、隣近所の顔の見える地域づくりを進めているという。

新潟県長岡市の東神田3丁目地区では、行政が整備している避難行動要支援者名簿とは別に、ローラー作戦により独自に地域に住む75歳以上の高齢者を聞き取り調査し、行政の名簿に何らかの理由で載っていない人も把握し、必要な支援などを要支援者名簿にまとめたとの発表がされた。

避難ルールを工夫している地域もあった。三重県津市の三杉町丹生俣地区では、「1人で避難せず複数で避難し、複数で要援護者を支援することを心がけている。避難所までの距離は遠いため、交通混雑を引き起こさないよう、乗り合わせで避難することも検討している」(磯田泰之さん)とした。

住民の意識づけ・防災活動の担い手

住民の意識づけについては、愛知県名古屋市の星崎学区から「何度話し合いをしても最初のうちは共助の議論にならず、みんな自分を守ることばかり話していたが、ある時、自助ができての共助ということに気づいた。今は、自助を積み上げていく形で共助が達成できるよう、一時避難場所までまず確実に避難できるようにし、その上で、近隣での見回りを行う形でいい議論ができている」(早川典夫さん)との報告があった。

愛媛県松山市の五明地区の吉金茂さんは「最初は、各団体から会議の回数が多すぎるなどの理由で、参加協力を呼びかけるのが大変だったが、台風が近づいた時にみんなの意識が高まり協力的になった。それ以来、開催のタイミングも工夫している」と住民意識を高めるヒントを語った。

愛知県岡崎市の矢作北学区では、「過去に住んでいる地域が大きな災害が一度もなく、住民意識が低かったが、まず役員が防災意識を持たせるとともに、各町に防災リーダーつくって、地域内の小中学生、高校生、保護者らを巻き込んでいる」(伊奈賢司さん)とした。

このほか、愛媛県新居浜市の金栄校区では、子供、現役、高齢者の3世代交流で街歩きを行い、それぞれの視点を共有している。高橋さんは「地域の防災活動を通じて3世代が交流を持つことで、地域のつながりが強くなり、次世代にもつなげていくことができる」と期待を話した。

住民にわかりやすく防災の重要性を伝えることで協力を得られているとの意見も。東京都国分寺市の高木町自治会では、地域が密集していることから、最大の課題を火災に的を絞り、「火事を出さない」「確実な安否確認を実施する」の2点だけを柱に防災活動に取り組んでいる。避難所である小学校には、住民が殺到したらスペースが足りないことから在宅避難を基本として、安全なら、家の外に「安全カード」を道路から見えるように掲げる。最近の訓練では住民の約半分がこうしたルールを覚え、外から安否を確認できるようになったという。

東京都文京区の新花会・三組弥生会・三組町会でつくるSYM三町会災害連絡会は特に若者の参加をテーマに活動を展開している。高山宗久さんは、「若い人たちには祭りに参加させてあげるかわりに、防災にも参加してもらっている。興味を持ってもらえるように短編映画や、わかりやすいマニュアルも作成した。廃ビルを利用し、実際に中に火をつけ消火する訓練も実施。リアルな活動で若者は集まってくる」とこれまでの取り組みを紹介した。

予算の確保について

予算面では、各地区から苦労の声が上がったが、兵庫県宝塚市の中山五月台中学校区は、市の地域防災計画に、今回策定した地域防災計画を組み入れてもらうよう防災会議に諮り、それが認めらたら予算付けしてもらえる方向で市と調整している。また、東京都国分寺市の本多連合町会では、資源回収を行うことで防災活動の収入源にあてている活動を披露した。

このほかでは、財源の確保についての発表はほとんど聞かれなかったが、大塚製薬工場と周辺自主防災会のように、企業にとってもプラスになる防災の仕組みを考えることで、避難場所や倉庫、資機材などを提供してもらえる事例は他の地域でも参考にすることができそうだ。

防災器具・設備を有効に活用

上記の共通課題以外では、各地区で防災器具や設備を有効に活用している実態も浮かび上がった。東京都国分寺市の本多連合町会では、地域内での大火災を防ぐため、住宅用火災報知器の全世帯設置と点検を目標に活動に取り組んでいる。実施率はすでに95%にまでなっていて、消火器についても全世帯への設置を進めており、こちらもすでに90%を超えるという。愛知県一宮市の神山連区では、わかりやすい手作りの防災マップを作成した。簡易トイレも手作りでつくり、地域の高齢者らにプレゼントをしている。

神戸市の真陽小学校では、メガホン「通称トラメガ」を活用して住民への告知訓練を実施している。サイレン機能を使ったり、トラメガをもって歩くスピードを工夫するなど、改善を積み重ねている。SYM三町会災害連合会では、5㎞先まで届く業務用無線やタブロイド端末を取り入れ情報共有できる仕組みを整え、繰り返し訓練を実施している。マンション単位で防災活動に取り組む東京都荒川区のトキアス管理組合では、安否確認システムを導入し、外出中の役員と在宅住民、外出中の住民、防災センターがいつでも連絡を取り合える体制にしている。