東京都23区内の各自治体は、災害への対策に対して各地域に即した体制で過去の経験を活かしながら取り組まれています。地形、災害経験などハード・ソフト面の特性は一つとして同じ地域はありません。それぞれの地域で予測されていること、予防計画、また、今後の取り組みなど現在の状況を各行政区の方々、地域で防災に関する活動をされている方々に伺い、お伝えしていきます。ご自身が住んでいるまちのことはもちろん隣町や連携する可能性があるまちのことを改めて知っていただける機会となるよう取材を続けてまいります。
港区は、人口24万3639人(2018年1月1日現在)の内、6階以上かつ50戸以上の共同住宅、いわゆる高層住宅は約700棟に上り、約10万世帯が居住しています。「在宅避難」が原則の中、居住者はマンション内で自らの力で災害時を乗り越える対策を取らなければなりません。今回は区内で懸命に活動を続ける2棟のマンションにお邪魔してまいりました。
第4回に続き、1998年築14階建て総戸数約180戸の三田シティハウス防災委員会委員長 久保井千勢さん、広報担当 内藤昭広さん、前期委員長であり現委員 押見誠則さんにお話を伺いました。
いざという時に助け合える顔が見える関係性で生活に安心を
防災委員会は管理組合理事会の下部組織として、現在約13名(男性7名、女性6名)で活動中。昨年3月、年に一度の防災訓練のみで備蓄品もない、防災に特化した組織もない状況に危機感を感じた警備員の方の発信から動き始めました。当時の理事の方に住民の顔をよく知る管理人・警備員の方から協力してくださりそうな方のご紹介があり、個別に声をかけて委員のメンバーが集まり始めました。
「年に一度の理事会主体の訓練は、水消火器の使い方など、すごく大切な内容ではありますが、毎年あまり変化がない訓練内容でした」
そこから工夫を凝らした活動を進めていった久保井さんは、企画から運営、広報物の作成も担います。ダンボールトイレづくりの実践、非常食の試食会、住民である医師の方からの応急救護方法の講習…と協力者を増やしながら、工夫を凝らしています。
今年度、取り掛かっている大きな取り組みは、防災備蓄品の整備。元々、備蓄倉庫もなかったことに危機感を覚えた委員会メンバーが管理組合の理事会に申請し、150万円の予算を計上し、集会所の中にロッカーを設け、備蓄品の購入、整理を試みられています。
「だいぶ資機材が揃いました。次は、住民の方に実際にお使いいただく機会を作りたいと思います」(押見さん)。委員長として立ち上げから携わられてきた押見さんは現在も委員として活動され、仕事上でも防災への視点や意識が変わったようです。
「七夕祭りの際に備蓄品として購入したテントを活用しました。普段のイベントで活用することで備蓄品の内容について住民の方々に知ってもらえるのはいい機会だと思います」(内藤さん)。
東日本大震災の際、お仕事上、会社に泊まり込みの日々を送られた経験から自宅の安全も保たねばと広報担当として活動されています。
「月に一度開催している『みんなのカフェ』で大きな成果を実感しました。要配慮者のご家族ともお知り合いになれたのです。その際にご家族のお話をされ、顔が見える関係になることができたので、いざというときに助け合えると思っています。またその方も安心して頼ってくださると思います」と今年の4月から始まったカフェを運営する久保井さんは、成果を確実に感じられていました。
月に一度集まって、コーヒー(50円)やお菓子を食べながら、お話をするだけ。ちょっと会話の時間を持つだけで、普段の生活ではなかなか顔を合わせないマンション住民同士で交流を図ることができ、いざという時の助け合いにつながります。
「今後の課題は、委員メンバーの新陳代謝です。防災意識の底上げをするにはより多くの方に防災のメンバーになってもらうことが大事だと思っています。今後、委員を輪番制にしたとすると、委員になる方は増えるけど、名ばかりの委員になってしまう可能性もあります。なぜなら、マニュアルの作成や備蓄品の整理などを終えると、委員が明確に何をするかが決まっていないからです。役割ややることを決めることも大切だと思っています」(押見さん)。
「今は、新しい方が安心して参加してもらえるような土台を作っています。各階に一人防災委員がいるという形にできれば理想ですね」(久保井さん)。想いが醸成されている立ち上げメンバーから他の住民の方も含めた活動に広げる過程は、非常に困難なもの。
しかし、新しく入る方が安心して参加できるように配慮されている現委員の方々の思いやりを強く感じました。受け入れる側の体制や心構えもすごく大切だと感じた瞬間でした。
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