排出量取引とは、国や企業ごとに温室効果ガス排出枠(キャップ)を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出した国や企業の間で取引(トレード)を行うことです。その目的は、市場による価格の調整メカニズムを通じ、排出限界コストの安い事業者から順に排出が削減されて、その結果、社会全体として効率的に温暖化ガスを削減することにあります。排出量取引は、需要と供給によって合理的な価格が決まり、全体として最小の費用で排出削減を実現する市場メカニズムを活用した制度といえます。この市場メカニズムが、有効に運用されるには、排出権取引制度の創設が最大のキーポイントとなります。第15回は、排出量取引のしくみと方法について解説いたします。

(1) 排出量取引の意義としくみ

排出量取引は、政府が「排出量取引」、報道機関は「排出権取引」と呼びますが、ここでは、排出量取引の国内外の紹介や事例を取り扱う点をふまえ、内容をわかりやすくするため、「排出量」「排出権」「排出枠」の用語を使いわけます。また、「温室効果ガス」と「温暖化ガス」の用語も使いわけます。

排出量取引は、社会全体として効率的に温暖化ガスを削減することを目的として、国や企業ごとに温室効果ガス排出枠(キャップ)を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出した国や企業の間で取引(トレード)を行うことです。

排出量が、取引される社会の実現理由は、CO2などの処理能力の有限性にあります。地球上の処理能力に限界があるため、人類が処理せざるを得ないCO2などの温暖化ガスは、取引されることで効果的な配分が可能となるからです。

排出量取引は、企業が排出枠を購入したほうが、削減対策コストより安い場合に、削減投資をせずに排出枠を購入することです。そのしくみは、図表1のとおりです。

図表1では、排出枠が交付されている企業間で、排出枠の一部の移転または取得を行う場合に、温暖化ガス排出量の削減に関して、単位削減量当たりの対策コストは企業によって差があるので、削減対策単価が高い企業が、削減対策単価が低い企業から排出枠を購入するしくみが示されています。

すなわち、ステップ1で、A社・B社とも年間の排出枠を100万トン割り当てられたと仮定し、ステップ2で、A社は110万トン、B社は90万トン排出します。B社の10万トン余剰分がステップ3で、A社へ取引されて10万トン超過分が埋め合わされます。B社の削減単価(温室効果ガス単位量当たりの削減コスト)が、A社の自国内削減単価より低い場合は、A社は取引した方が効率的となります。

このように、排出量取引は、需要と供給によって合理的な価格が決まり、全体として最小の費用で排出削減を実現する市場メカニズムを活用した制度であることがわかります。

排出量取引制度のメリットは、排出削減コストを排出量取引が行われる範囲全体で均等化することで、経済的・効率的な温暖化対策が実現される点にあります。たとえば、2008年から12年までに1990年比5%以上削減する目標に対応して、取引に参加する各主体の削減目標を設定することにより、参加者全体の排出量のコントロールが可能になります。さらに、各主体にとっては、排出削減に関して自ら削減対策を実施あるいは排出量を購入するかの柔軟な対応が可能になるというメリットもあります。

反対にデメリットは、初期割り当ての配分についての合意を得ることが難しいことです。この初期割り当てとは、制度開始時に参加主体が、排出可能な温室効果ガスの量を決めることですが、一般に、参加主体によって温暖化対策の取り組み状況や削減量が異なるので、一律割り当ては困難です。また、炭素税と比べ排出量のモニタリングや検証、遵守体制を整備するための費用および市場創設のための費用などが必要であるというデメリットがあります。