三起商行本社

「ミキハウス」のブランドでベビー服や子供服、靴、玩具などの販売を世界中に展開する三起商行(大阪府八尾市、木村皓一社長)が、委託先のミャンマー工場の人権侵害を指摘されたのは2016年11月だった。同社は第三者機関を設立して調査。結果をもとに工場に改善を依頼し、実行された。その後、各種方針や規範を策定し、2019年には人権デュー・デリジェンスの取り組みを開始。責任あるサプライチェーンの構築に力を注いでいる。

突然の人権侵害の指摘

画像を拡大 三起商行の製品製造におけるサプライチェーンイメージ ※最終加工の製造委託先工場のみ (提供:三起商行)

大阪府八尾市にある三起商行本社ビルの地下に立地する、ミキハウス情報発信の拠点となる「ミキハウスラボ」。赤に白抜きのおなじみのロゴ『miki HOUSE』があしらわれた柱を中心に、数多くの子供服が動きのあるポーズでディスプレイされている。

同社執行役員で経営企画本部ESG推進部部長の平野芳紀氏は「子供服を販売している当社にとって、児童労働は絶対にあってはならない。子供以外の労働者の権利も同様です」と語る。同社は人権デュー・デリジェンス(DD)を実施し、自社製品に関わる国内外の労働者を含めた責任あるサプライチェーンの構築に取り組む。

三起商行に突然、海外労働者の人権侵害の指摘が届いたのは2016年11月。青天の霹靂だったという。グループ会社であるミキハウストレードに、日本に本拠地をおく国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」から、委託先であるミャンマーの縫製工場における労働者の権利侵害と労働環境の不備などを示した書面が送られてきた。封筒は、特別に目立ったものではなかったという。ミキハウストレードから三起商行に報告が上がってきたのは、一定期間が経過した後だった。

当時は、外国人技能実習生の受入企業・団体を監督する組織設立などが盛り込まれた技能実習法の施行目前。三起商行では、日本国内で製品製造を行う委託先工場の92社に、実習生の雇用状況に関するアンケートを依頼しているタイミン グだった。「欧米など海外で販売していることもあり、以前から海外サプライヤーの対応が 必要なのはセミナーなどに参加してわかっていました。それでも、海外の人権に関してはピンときていなかったのが正直なところ。いずれはという気持ちでした」と、社長室製品安全管理部部長の上田泰三氏は振り返る。

指摘に対し、回答すべきかどうか即断できなかったという。そこでアンケートで協力を得ていた別のNGOに相談し、対応に動いた。第三者機関の設立を決定し、調査を依頼。2017年1月に「ミャンマー委託先工場調査報告書」を公表した。

指摘を受けたミャンマーの工場は、日本の商社から委託された韓国資本の工場で、サプライヤーとして把握できてはいなかった。三起商行はグループ会社も含めて工場を持たず、服の製造などすべてを委託している

同社は商社を通じて働きかけ、その工場では労働時間や賃金、労働環境の改善がなされた。同年には「CSR調達方針」「サプライヤー人権方針」「サプライヤー行動規範」を次々に策定し、発表。ヒューマンライツ・ナウへの報告会を設けるなど、その後もやり取りは5年ほど続いたという。

以降の三起商行の動きは速かった。2017年10月に取引先である工場や商社を集め、CSR調達に関する説明会を開催。「CSR調達方針」「サプライヤー人権方針」「サプライヤー行動規範」への理解を求めた。同時にサプライチェーンと人権に関する専門家の講演を設定。この説明会には56社が参加した。