【ニューヨーク時事】力強さを保ってきた米国経済が急激に悪化しているとの不安が引き金となり、金融市場が「逆回転」を始めた。人工知能(AI)ブームを背景としたハイテク株買いや、日米の大幅な金利差を前提とした円売り・ドル買いなど、昨年来の流れに急ブレーキがかかり、先行き不透明感が高まっている。
 「米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げを始めるべきだった」。FRBの元エコノミストで、失業率の推移から景気後退入りを見極める手法を考案したことで知られるクローディア・サーム氏は2日、米メディアのインタビューで、FRBは景気を冷まし過ぎないよう、先月末の金融政策会合で利下げを決めた方が良かったとの見方を示した。
 サーム氏の手法は、直近3カ月の失業率の平均が、過去12カ月間の最低値を0.5ポイント上回った場合に景気後退入りのサインと見なす。2日発表された7月の米雇用統計で失業率が4.3%に上昇し、この基準を上回ったことで、市場では景気懸念が急速に拡大。優良株で構成するダウ工業株30種平均は一時900ドル超安となった。
 邦銀関係者はこれまでの金融市場について、「米金利が高止まりする中でも強い成長が見込めるとして、半導体大手エヌビディアなどAI関連株が買われてきた」と説明。「日銀の利上げにもFRBの利下げにも時間がかかるとの想定で、投機筋が円売り・ドル買いのポジションを積み上げてきた」と語る。
 雇用統計など相次ぐ低調な米経済指標を踏まえ、市場参加者の間ではFRBが9月に政策金利を通常の0.25%でなく、0.50%引き下げるとの観測が強まる。日銀は先月末、追加利上げに踏み切った。邦銀関係者はAI株買いや円売りのトレンドは「いったん終わった」と分析する。
 一方、日系大手証券の担当者は「米企業の業績は底堅く、実際そこまで景気が悪いわけではない」と指摘。ただ、市場心理が悪化していることから、「しばらくは経済指標に大きく振り回される状態が続く」との見通しを示した。 
〔写真説明〕ニューヨーク証券取引所=2日、米ニューヨーク(EPA時事)

(ニュース提供元:時事通信社)