【マニラ時事】フィリピンが実効支配する南シナ海のアユンギン(中国名・仁愛)礁付近で先月起きた比物資運搬船と中国海警局船舶との衝突を巡り、比政府がいったん発表した対応策を直後に撤回し、波紋を広げている。専門家からは比側の方針発表の在り方が混乱をもたらしたとして、政府の広報体制を問題視する声も上がっている。
 先月17日の衝突では、刃物を持った中国側要員が比側のゴムボートに穴を開けたほか、武器を強奪。比軍兵士8人が親指を切断するなどのけがをした。
 衝突の4日後、ベルサミン比官房長官は「衝突は誤解に基づく偶発的な事故。今後は(物資の運搬)予定を事前に(中国側へ)通知したい。マルコス大統領も了承済みだ」と記者団に表明。同礁を自国領だとする中国側の主張を認めているかのような発言で、比国内に衝撃が走った。
 ところが、さらに3日後、テオドロ比国防相が記者会見で「日程を事前に公表することはない」と述べ、ベルサミン氏の発言を撤回。前日に南シナ海の前線基地を訪れたマルコス氏が「方針を変更した」という。
 朝令暮改の対応は、比政府で南シナ海問題の担当が複数の機関にまたがる上、それぞれが発表したことにも一因があるとみられる。マニラに拠点を置くシンクタンクのジョシュア・エスペニヤ副理事長は「南シナ海問題に関する広報担当者を大統領府に置く必要がある」と指摘している。 
〔写真説明〕南シナ海のアユンギン(中国名・仁愛)礁付近で、フィリピンの物資運搬船を妨害する中国海警局の要員=6月17日(比軍提供)(EPA時事)

(ニュース提供元:時事通信社)