防衛省は12日、安全保障に関する「特定秘密」の不適切管理や海上自衛隊での手当不正受給などで関係者を処分した。岸田文雄首相は木原稔防衛相の交代を否定し、組織立て直しに当たらせる考えだが、政権内の危機感は強い。政府・与党内からは、防衛費増額のための増税議論に影響しかねないとの懸念が出ている。
 「わが国の防衛に一分の隙も許されない状況だ。防衛相は信頼回復に全力で当たってほしい」。首相は11日(日本時間12日)、訪問先の米国で記者団にこう述べた。
 自民内では、処分発表を前に2017年の南スーダン国連平和維持活動(PKO)日報問題と深刻さは同等だとして、「木原氏の責任問題になる」(幹部)との見方も出ていた。政府高官は相次ぐ不祥事に「報告を受けたと思ったらまた別の問題が出てくる」と嘆息する。
 防衛増税の開始時期は秋から与党内の議論が本格化する見通しだ。海自では隊員が川崎重工業から金品や飲食の提供を不正に受けた疑惑もあり、国民の反発は必至。公明党の佐藤茂樹外交安全保障調査会長は12日の党会合で「負担をお願いする中での不祥事は国民の信頼を失う」と批判した。
 林芳正官房長官は記者会見で「安定的な財源確保は重要だ。徹底した行財政改革に取り組む」と政府方針への理解を求めたものの、首相官邸内でも「判断に影響するかもしれない」(幹部)との声が出始めている。
 特定秘密のずさんな管理も懸念材料だ。今回の訪米でも、首相は北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長に「秘匿情報共有体制を強化する」と伝えたが、米国や同志国との連携に影響しかねない。
 立憲民主党の泉健太代表は12日の会見で「首相は防衛増税撤回を考えるべきだ。予算が適切なものか検証が必要だ」と強調。「防衛予算総点検国会だ」と述べ、秋に想定される臨時国会で徹底追及する考えを示した。政府関係者は「防衛省には問題を一掃してもらわないといけない」と苦虫をかみつぶしたような顔で語った。 
〔写真説明〕記者会見する林芳正官房長官=12日午前、首相官邸

(ニュース提供元:時事通信社)