初冬の雷――11月の気象災害――
増大する雷害リスク
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
2023/11/22
気象予報の観点から見た防災のポイント
永澤 義嗣
1952年札幌市生まれ。1975年気象大学校卒業。網走地方気象台を皮切りに、札幌管区気象台、気象庁予報部、気象研究所などで勤務。気象庁予報第一班長、札幌管区気象台予報課長、気象庁防災気象官、気象庁主任予報官、旭川地方気象台長、高松地方気象台長などを歴任。2012年気象庁を定年退職。気象予報士(登録番号第296号)。著書に「気象予報と防災―予報官の道」(中公新書2018年)など多数。
「地震、雷、火事、親父」という慣用句がある。人々に恐れられているものを並べた言い回しだが、この言葉が多くの人に知られるようになったのは、七五調で語呂が良いからだろう。最後に「親父(おやじ)」が入っていることには疑問を感じる向きも多く、別の言葉に言い換えられたりもする。それ以外の3つがどうして恐れられるのかを考えてみると、予測が難しい上に、自分の力では防ぎようがないからではないか。その中に「雷」がある。
雷は夏のものというイメージがあるかもしれない。しかし、その認識は正しくない。雷は冬にも起こる。いや、その認識も正しくない。冬の方が雷の多い地域もある。日本海側の沿岸部や、伊豆諸島南部がその地域である。今回は、初冬の今ごろの時期に発生する雷について述べてみたい。
雷が観測された日数を雷日数という。年間の雷日数、すなわち、わが国で1年間に雷の発生する日数が最も多い地域はどこか。北関東あたりを思い描く人が多いのかもしれないが、実は異なる。図1は、気象庁のホームページに載っている平年の雷日数の分布図である。北関東は年間25日前後で、比較的多いことは確かだが、それは九州と同程度である。最も多いのは北陸から東北地方にかけての日本海側で、年間の雷日数は35~45日に達する。
図2は、月別の雷日数の平年値のグラフで、北関東の宇都宮と、日本海側の金沢について示されている。宇都宮では、夏の雷が多く、冬は少ない。これに対し、金沢では、夏の雷もそれなりに多いが、冬の雷が圧倒的に多い。この結果、年間の雷日数は、宇都宮の26.5日に対し、金沢では45.1日と多くなっている。
次に、気象庁のホームページに載っていない図を示す。図3は、日本海側の雷日数の年間最多月を示している。日本海側では秋から冬にかけて雷が多いのだが、発生数が最多となる月は同じではない。日本最北端の稚内では、9月に雷が多い。それ以外の北海道日本海側に位置する留萌、札幌、寿都、江差の各地点、それに青森県の深浦では、雷日数の年間最多月は10月である。さらに、秋田、酒田(山形県)、佐渡島(新潟県)の相川、能登半島(石川県)の輪島では、11月が雷日数の年間最多月となる。そして、新潟県から山陰にかけての新潟、高田(上越市)、金沢、福井、鳥取、境(境港市)、西郷(隠岐島)の各地点では12月の雷日数が最も多く、敦賀(福井県)では1月に最多となっている。このほか、伊豆諸島南部の八丈島でも、夏より冬に雷が多く、雷日数は1月に最も多くなっている。
図3から分かるように、日本海側の雷日数のピークは、北の地方ほど早く現れ、秋から冬にかけて次第に南下する。この事実は、寒候期における日本海側の雷の発生メカニズムを示唆している。すなわち、日本海側の沖合を流れる対馬暖流の上に、大陸からの寒気が流れ込み、積乱雲が発達して発雷するというメカニズムである。これは、冬の季節風に伴う降雪の説明と共通している。ただし、雷日数のピークは、寒気の強さのピークに一致するのでなく、それより先行し、寒気の流入が強まり始める頃に現れる。
図4は、日本海側の幾つかの地点の平年の月別雷日数のグラフを、北から順に、上から下へ並べたものである。秋から冬に向かって、雷日数の最多月が南下していく様子を黒矢印で追跡した。
北陸地方で冬の雷は、「雪起こし」と呼ばれることがある。大雪が降り始める時に雷が鳴ることが多いからである。また、「鰤(ぶり)起こし」とも言われる。雷が鳴ると寒ブリがたくさん獲れる、というわけである。これらは、冬の季語になっている。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/10/29
なぜコンプライアンスの方向性はズレてしまったのか?
企業の不正・不祥事が発覚するたび「コンプライアンスが機能していない」といわれますが、コンプライアンス自体が弱まっているわけではなく、むしろ「うっとうしい」「窮屈だ」と、その圧力は強まっているようです。このギャップはなぜなのか。ネットコミュニケーションなどから現代社会の問題を研究する成蹊大学文学部の伊藤昌亮教授とともに考えました。
2024/10/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方