冬季雷のイメージ

「地震、雷、火事、親父」という慣用句がある。人々に恐れられているものを並べた言い回しだが、この言葉が多くの人に知られるようになったのは、七五調で語呂が良いからだろう。最後に「親父(おやじ)」が入っていることには疑問を感じる向きも多く、別の言葉に言い換えられたりもする。それ以外の3つがどうして恐れられるのかを考えてみると、予測が難しい上に、自分の力では防ぎようがないからではないか。その中に「雷」がある。

雷は夏のものというイメージがあるかもしれない。しかし、その認識は正しくない。雷は冬にも起こる。いや、その認識も正しくない。冬の方が雷の多い地域もある。日本海側の沿岸部や、伊豆諸島南部がその地域である。今回は、初冬の今ごろの時期に発生する雷について述べてみたい。

雷日数

雷が観測された日数を雷日数という。年間の雷日数、すなわち、わが国で1年間に雷の発生する日数が最も多い地域はどこか。北関東あたりを思い描く人が多いのかもしれないが、実は異なる。図1は、気象庁のホームページに載っている平年の雷日数の分布図である。北関東は年間25日前後で、比較的多いことは確かだが、それは九州と同程度である。最も多いのは北陸から東北地方にかけての日本海側で、年間の雷日数は35~45日に達する。

画像を拡大 図1. 年間の雷日数(1991~2020年の観測に基づく平年値、気象庁による)

図2は、月別の雷日数の平年値のグラフで、北関東の宇都宮と、日本海側の金沢について示されている。宇都宮では、夏の雷が多く、冬は少ない。これに対し、金沢では、夏の雷もそれなりに多いが、冬の雷が圧倒的に多い。この結果、年間の雷日数は、宇都宮の26.5日に対し、金沢では45.1日と多くなっている。

画像を拡大 図2. 月別の雷日数(1991~2020年の観測に基づく平年値、気象庁による)

次に、気象庁のホームページに載っていない図を示す。図3は、日本海側の雷日数の年間最多月を示している。日本海側では秋から冬にかけて雷が多いのだが、発生数が最多となる月は同じではない。日本最北端の稚内では、9月に雷が多い。それ以外の北海道日本海側に位置する留萌、札幌、寿都、江差の各地点、それに青森県の深浦では、雷日数の年間最多月は10月である。さらに、秋田、酒田(山形県)、佐渡島(新潟県)の相川、能登半島(石川県)の輪島では、11月が雷日数の年間最多月となる。そして、新潟県から山陰にかけての新潟、高田(上越市)、金沢、福井、鳥取、境(境港市)、西郷(隠岐島)の各地点では12月の雷日数が最も多く、敦賀(福井県)では1月に最多となっている。このほか、伊豆諸島南部の八丈島でも、夏より冬に雷が多く、雷日数は1月に最も多くなっている。

画像を拡大 図3. 日本海側の雷日数の年間最多月(1991~2020年の観測に基づく平年値による)。S:9月、O:10月、N:11月、D:12月、J:1月。なお、伊豆諸島南部の八丈島でも冬季に雷が多い

 

雪起こし、鰤起こし

図3から分かるように、日本海側の雷日数のピークは、北の地方ほど早く現れ、秋から冬にかけて次第に南下する。この事実は、寒候期における日本海側の雷の発生メカニズムを示唆している。すなわち、日本海側の沖合を流れる対馬暖流の上に、大陸からの寒気が流れ込み、積乱雲が発達して発雷するというメカニズムである。これは、冬の季節風に伴う降雪の説明と共通している。ただし、雷日数のピークは、寒気の強さのピークに一致するのでなく、それより先行し、寒気の流入が強まり始める頃に現れる。

図4は、日本海側の幾つかの地点の平年の月別雷日数のグラフを、北から順に、上から下へ並べたものである。秋から冬に向かって、雷日数の最多月が南下していく様子を黒矢印で追跡した。

画像を拡大 図4. 日本海側の主な地点の月別雷日数(1991~2020年の観測に基づく平年値。ただし、敦賀は1991~2005年)

北陸地方で冬の雷は、「雪起こし」と呼ばれることがある。大雪が降り始める時に雷が鳴ることが多いからである。また、「鰤(ぶり)起こし」とも言われる。雷が鳴ると寒ブリがたくさん獲れる、というわけである。これらは、冬の季語になっている。