リコー本社

リコーグループでは、近年の気象災害の多発を受け、国内全拠点での水害対策を強化している。ハザードマップによる浸水リスクの高い地域に加え、過去に計画雨量を超える降雨を記録した地域を中心に、止水壁や止水板の設置、受電設備の嵩上げなどを順次実施。同時に、拠点ごとのタイムラインを整備し、被害が発生する前に、止水板などを確実に設置できる体制を整えている。合わせて、これらの情報をDX化することで、管理負担を減らし、透明性も確保し、従業員の誰もが必要な情報を必要なときに見られるようにしている。

 

画像を拡大 建物への浸水を防ぐ止水板(リコーテクノロジーセンター)
画像を拡大 かさ上げした非常用発電設備(リコーテクノロジーセンター)

 

 

 

 

 

 

 

独自基準に基づき拠点状況に応じ対策

リコーグループでは、2020年度より、約480カ所ある国内の全拠点で、水害対策を強化している。対策のための調査を開始したのは2019年2月からだった。

リコーのプロフェッショナルサービス部 人事総務センター 総務サポート室 防災管理グループでリーダーを務める阿部一博氏は「リコーでは2019年の台風19号でグループ会社のリコーインダストリーの東北事業所が冠水などの被害に遭いました。このようにリスクが顕在化し、会社としてのリスク認識の高まりにより、2020年度の重点経営リスクに国内拠点の水害対策が追加されたため、これまで以上に対策を強化してきました。リコー独自の水害リスク判定基準を設けたこの取り組みを、国内の全拠点で進めている最中です」と話す。

リコーが水害対策を強化する拠点を選ぶため、独自に設けたのが水害リスク判定基準だ。基準のポイントは2つ。1つ目は拠点が計画規模の洪水浸水想定区域図で示される浸水想定エリアに存在するか。2つ目は、拠点に最も近い気象庁の観測所で記録された最大降雨量が、河川の計画規模で想定している降雨量を越えたことがあるか、だ。いずれかの基準を満たした拠点で、水害対策を強化する。阿部氏は「計画規模の洪水浸水想定区域図の利用は、国が想定しているリスクからアプローチした基準です。一方、計画規模を越える過去最大の降雨量は、実績からアプローチした基準になります」と説明する。

計画規模とは、各河川で氾濫を防ぐ治水整備の際に、対応目標とされている降雨量のこと。1級河川では、おおむね100年から200年に1度発生する洪水を引き起こす降雨量が設定されている。

洪水浸水想定には計画規模だけではなく、想定最大規模も存在する。これは、各河川で1000年に1 回程度の大洪水を発生させる、最大限の想定降雨量だ。阿部氏は「基準の設定に際し、想定最大規模か計画規模のどちらをもとに進めるかを悩みました。国土交通省の河川事務所に相談すると、国や県の治水対策は計画規模をもとに実施されていると説明を受けました。1000年に1度の対策はいち企業として難しいのではとアドバイスされました。自治体との連携も提案されました」と語る。自治体との連携としては、浸水後のポンプによる排水なども検討したが不首尾に終わり、水害リスク判定基準に合致したリコーインダストリーの東北事業所やリコーの沼津事業所と池田事業所では、電気設備の擁壁化や防水板設置、土嚢を備えるなどハード対策を実施した。水害行動計画書の策定や机上訓練のようなソフト対策も合わせて実行した。