リスクマネジメント室メンバー。左から藤山昌志氏、小松﨑寛氏 、千々岩沙緒里氏、伊藤光晴氏

JX金属は、極めて薄い電気回路などに使われる圧延銅箔で8割の世界シェア、半導体回路の形成に使う金属薄膜材料では6割の世界シェアを持ち、非鉄金属業界をリードするグローバル企業だ。同社では2015年以降、トップの方針のもと、全社でリスクマネジメントに力を入れている。

JX金属
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.39(2023年6月号)に掲載したものです。

事例のPoint

❶リスクの定義と区分を明確化

・各部門が抽出するリスクを「事業リスク」、グループの経営目標の達成を阻害するリスクを「経営リスク」として定義。事業リスクと経営リスクの中から、グループの経営に大きなインパクトを与え、全社横断的に対応すべきと判断したリスクを「重要リスク」としている。
 

❷リスク一覧で共通認識

・各組織から挙がってくる大量で多彩な事業リスクを整理し、「社会制度」「市場環境」「戦略判断」「企業基盤」「事業運営」の5項目、45小項目に分類。これが、各組織が事業リスクを考える際の土台にもなる。
 

❸ERMの成熟度を測定

・リスクマネジメントの専門家集団であるRIMS ( Risk and Insurance Management Society )が開発したRMM(Risk Maturity Model)を使って自分たちのERMの成熟度を測定している。


JX金属は、10数年ほど前からリスクマネジメントの活動、すなわちリスク把握調査とその対応のモニタリングを開始したが、それを継続的な取り組みとして定着させるまでには至らなかった。その状況を踏まえ、2015年にはリスクマネジメントの組織を設置するとともに、社長諮問機関としての会議体をスタートさせ、以降、改善を重ねつつ今日に至っている。

同社常務執行役員で総務部・法務部・人事部・環境安全部を管掌し総務部長を務める小松﨑寛氏は「当時、リスクマネジメントの範囲は、品質管理や安全衛生、環境保全などのオペレーショナルリスクが中心でした。リスクの抽出から対応までの運用は各部門に委ねていました」と振り返る。

2019年には、2040年を見据えた同社の長期ビジョンの策定にあわせて、それまでのリスクマネジメント活動を全社的リスクマネジメント(ERM)に進展させた。その背景について、総務部・リスクマネジメント室・リスクマネジメント担当課長の藤山昌志氏はこう説明する。

「いざリスクマネジメントを導入すると、リスクマネジメントを行うことが目的になってしまい、何のためにやるのか、本当に役立っているのかと疑問がわいてきました。2017年後半になるとCOSO ERMやISO31000 の広がりもあって、リスクマネジメントは各リスクの洗い出しと対策を中心とした個別の活動ではなく、経営戦略に生かす視点で運用するという考え方が普及してきました。我々もこの視点が必要だと思い、リスクマネジメントをERM にまで昇華させることになったのです」