2023/04/13
インタビュー
増加する太陽光発電パネルの風リスクは?

温室効果ガスの削減やエネルギーの安定供給に向けて、政府や東京都が太陽光発電設備の設置義務化の方針案を発表するなど、太陽光発電に再び注目が集まっている。企業でも工場の敷地や屋根を利用して太陽光発電パネルを設置する事例が増えているようだ。一方で、気候変動リスクは年々増加し、大型台風や竜巻、突風などは増加傾向にあるとの見方もあり、実際に強い風でパネルが被災する事例は毎年のように起きている。太陽光発電設備の設置において生じるリスクや対処法について、風工学に詳しい京都大学大学院工学研究科准教授の松宮央登氏に聞いた。

風荷重は風速の二乗で大きくなる
Q:近年、太陽光発電の設置が増えているようだが、どのような被害が増えているのか。
A:経産省の資料でも公開されているように、土砂や浸水、積雪など、さまざまな被害がある。特に懸念しているのは風による被害だ。台風などの強風が吹くことで、太陽光発電パネルが風荷重に耐えきれずに破損して物理的に故障したり、破損したパネルが風で飛ばされて周囲に被害を与えることもある。
Q:さまざまな事業者が太陽光発電パネルを製造しているが、太陽光発電設備には品質を担保するための規格などがあるか。
A:太陽光発電設備の設置には技術基準が定められており、電気事業法(電気設備技術基準)を守るべき部分と、構造物として建築基準法を守るべき部分がある。また、JIS C 8992、JIS C 8955:2017などのJIS規格も定められており、適用される規格の基準に沿って設備を作る必要がある。
Q:風による被害が大きい理由は何か。
A:風が吹いても太陽光発電設備が破損しないようにするためには、一定の風荷重に耐えうる設計が必要だ。流体に関するエネルギー保存則であるベルヌーイの定理などでも表されるように、単位面積あたりに作用する風荷重(風圧)は流速の2乗に比例する形となる。例えば、風速20m/sの場合に風荷重が250N/m2(Pa)とすると、風速が倍の40m/sになると風荷重は1000N/m2(Pa)となる。風荷重が風速の二乗で大きくなることで、強風時には感覚的には信じられないほどの荷重が作用することになる。これが、風による太陽光発電設備の被害が大きくなりやすい理由だ。この点を意識して被害に備えることが重要となる。
Q:昨今、日本各地で大型台風による大きな被害が出ており、太陽光発電設備の設置が増えれば、台風時に設備が破損したりパネルが割れて周囲に飛んだりするなどの被害が増えることが予想される。太陽光発電設備の規格は、台風なども想定して設定されているのか。
A:一般的な建築物の設計荷重においては2段階のラインを設定するという考え方がよく用いられており、機能が損傷しないラインと、多少は機能が損傷したとしても、人命を守るために絶対に守るべきラインを考えることがある。
太陽光発電設備の場合は再現期間50年という風速値を用いるのが一般的だが、これは確率的には50年に一度吹くくらいの強風を想定するという意味合いで、数値としては30〜40m/sくらいの台風レベルを想定して、機能が損傷しないようにしている。
一方、建築物の設計においては、多少は機能が損傷したとしても人命を守るために倒壊などを防ぐラインとしては、再現期間500年(500年に一度吹く可能性があるほどの巨大台風など)などの高い風速値を用いる。2018年に大阪に大きな被害を出した台風21号や2020年の「令和元年房総半島台風」などの観測史上最強クラスの台風が襲来しているが、再現期間500年という値を適用すれば、こうした台風にも対応できることになる。
太陽光発電設備の設計では、前者の機能が損傷しないラインの評価のみが行われるが、基準に沿った設計が適切になされていれば、多くの場合には後者のラインを満たしており、他者への被害を及ぼさない程度の強度は有しているとは考えられている。
基準値を上げれば連動してコストも上がってしまうため、どんな台風が来ても損傷しないような基準を作るというのは現実的ではない。実際に被害が出ている事例では、基準を満たしていない場合も多いと考えられる。しかし、太陽光発電設備が破損して敷地から飛び、他者や人命に危険が及ぶような被害が出るのは避けるように考えなければならない。

インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方