近くの山でもブランク明けには思わぬリスクが(写真:写真AC)

■オンライン会議での意外なエピソード

ある日の午後、4人はそれぞれ自宅のパソコンからあいさつを交わしました。4人というのは山ガールのミユキさんとマミさん、山の先輩ヒデさん、そしてハルトです。感染症の流行以来、みんなすっかりテレワークに慣れてしまった感がありますが、今は気分転換のためのプライベート会議の時間です。

このメンバーとくれば議題は自然と山の話になります。ミユキさんとマミさんは人の混まない山をねらって久々に低山ハイクを楽しんだと言います。ヒデさんは沢登りでリフレッシュしたことを吹聴します。ところがハルトはどこかの山に行ってきたという話が出ません。「ハルトくんは山には行ってないのか?」とヒデさんは尋ねました。

「実は…行くことは行ったんですが、ちょっとエライ目に遭ってしまいましてね」。みな意外に思い、耳を傾けました。ハルトは次のような話を切り出したのです。

居ても立ってもいられず、思わず近くの山へ(写真:写真AC)

ハルトは感染症の流行や多忙な仕事で、ここしばらくどこにも出かけていませんでした。運動不足やストレスが気になり、少しは体を動かさなくてはと心では焦るのですが、身体の方は逆になまくらになって動くのが億劫というありさま。そのうち、たまたま時間が空いて好天に恵まれたことで、居ても立ってもいられずに弾かれるように山へ出かけたのです。

■いつもと違う自分の思考と体力

行き先は高尾山。2カ月ぶりの山歩きですが、目的は山登りというよりもテレビでやっていた高尾山上にある茶屋の人気スイーツをちょっと味わって来よう、ぐらいの気持ちでした。

昼近くに家を出て、山麓からケーブルカーでのぼり、高尾山頂についたのが午後2時過ぎ。当初はスイーツを堪能したらそのまま引き返す予定でしたが、順光に照らされた山頂からの眺望は美しく、えもいわれぬノスタルジックな雰囲気に満ちていました。「もうしばらく山を眺めていたいなあ…」。

登山地図に目をやると、この先、城山へ登ってから相模湖に下るコースを取れば2時間半、日が落ちる前には相模湖駅に出られそうです。自分の体力なら楽勝だな。そう判断した彼は、行きがけの駄賃でさらに奥の山へ向かったのです。

高尾山の山頂から奥へ向かう山道は階段で始まります。ジグザグの階段を下り、茶屋を過ぎると今度は木の階段の長い下りとなります。西日を浴びてオレンジ色に染まる山々の風景を堪能しながら満足げに下り切ったまではよかったのですが、のぼりに差し掛かかったとたん、はたと彼は自分の体調に異変を感じ始めました。数歩登るたびに息が苦しくなって立ち止まらずにはいられないのです。

足取りが思うようにはかどらない(写真:写真AC)

「ど、どうしたんだろう? 山男の僕ともあろうものが」。一丁平から城山ののぼりに入ると、息苦しさに加えて今度は思うように足が上がりません。体中から汗が吹き出し、太腿とふくらはぎの筋肉がパンパンになって、いつものように軽快な推進力をつくり出してはくれません。