2022/08/30
事例から学ぶ
食品メーカーの明治、製薬会社のMeiji Seikaファルマ、ワクチン製造のKMバイオロジクスの事業会社からなる明治グループ。持ち株会社の明治ホールディングス(明治HD:東京都中央区、川村和夫代表取締役社長)は2019年、環境省の支援を受け、気候変動のシナリオ分析を実施した。現在も分析領域をグループ全体に拡大させ、取り組み強化を進めている。
記事中図表提供:明治HD
明治ホールディングス
東京都
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.28(2022年7月号)に掲載したものです。
❶サステナビリティに気候変動対応を位置付け
・気候変動リスク・機会の選定、シナリオ分析、対策の進捗管理は専門の「グループTCFD会議」で実施。グループのサステナビリティ活動に明確に位置付け、社長のリーダーシップのもとで協力に推進する
❷気候変動の影響を定量化して改善
・シナリオ分析により、気候変動が各種事業に与える影響を定量的に金額で評価。ただし予測ではなく、改善してリスクを減らし機会を獲得するための手がかりであることを社内に伝える
❸気候変動の取り組みをサプライチェーンに拡大
・自社が排出するCO2の量より、サプライチェーンなどに関わる他社の排出量が多いことから、サステナビリティ推進部内にサプライチェーングループを発足し実態把握に乗り出す
サステナビリティに気候変動対応を位置付け
明治HDサステナビリティ推進部サプライチェーングループのグループ長・天沼弘光氏は「気候変動のシナリオ分析をTCFDの情報開示フレームワークとだけ考えると、結果を公開して終わりになる。しかし、本来の目的は分析を事業のレジリエンスにつなげること。だからこそ、継続的な取り組みが重要」と話す。
TCFDとは、国際金融の監視などを行う金融安定理事会が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称。2017年に、気候変動のシナリオ分析を含めた気候変動のリスクと機会に関する情報開示を企業に推奨する提言(TCFD提言)をまとめた組織だ。東京証券取引所の市場再編で、2022年からプライム市場の企業はTCFD提言に沿った情報開示が求められている。
明治HDで気候変動のリスクと機会の選定やシナリオ分析の実施、対策の進捗状況などを管理するのは、2019年度に設置されたグループTCFD会議だ。
メンバーは、2020 年に新設したサステナビリティの最高責任者・CSO(Chief Sustainability Officer)に就任した取締役専務執行役員。それにサステナビリティ推進部と経営企画部の部長と各グループ長など。2021年度からは気候変動リスクの重要性から、同年に設置されたリスクマネジメント部の部長とグループ長も参加するようになった。
「ガバナンスの観点から、TCFDの専門会議を設置した効果は大きい」と、事務局を務める天沼氏は話す。
2022年4月には、明治グループ全体のサステナビリティマネジメントを強化。明治HDのサステナビリティ推進部の人員を増やすなど、HDが中心となり気候変動対策に取り組む体制に変更した。
「事業会社は短期的な利益や売上を強く求められる。一方、明治HDはROE(自己資本利益率)とESG(環境・社会・ガバナンス)を組み合わせた独自の指標を設定し、中長期的な視点で評価する。体制を変更したことは、気候変動含めたサステナビリティの推進に向けて重要な意義がある」と天沼氏は説明する。
2020年度に5回開催されたグループTCFD会議は、2021年度は7回に増加。これは分析対象の拡大や掘り下げた分析が理由だ。グループTCFD会議の上位機関であるグループサステナビリティ事務局会議は明治HDのCSOと各担当部長、事業会社のサステナビリティ担当部署の部長がコアメンバーとなり、毎月開催される。
気候変動リスクのほか、人権や環境を含めたサステナビリティ活動全般を議論するのがグループサステナビリティ委員会になる。年に2回開催する同委員会は、明治HDの代表取締役社長が委員長を務め、各事業会社の社長が副委員長、関係部署の責任者が委員として参加する。
最終的に明治グループ全体にとって重要なサステナビリティ活動は、経営会議が審議し、取締役会が監督のもと経営に反映している。率先したシナリオ分析の実施やグループTCFD会議の設置、CSOの任命のように、明治HDで気候変動リスクの取り組みが活発なのは、サステナビリティへの関心の高い社長のリーダーシップによるところが大きいという。
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