2022/01/16
2022年1月号 レジリエンスとオールハザードBCP
2022年 年頭インタビュー
国立研究開発法人 防災科学技術研究所理事長 林春男氏に聞く
1951年東京生まれ。74年早稲田大学文学部心理学科卒、79年同大学大学院博士課程単位取得終了。83年カリフォルニア大学大学院心理学科博士課程修了(Ph.D)、弘前大学人文学部助教授、広島大学総合科学部助教授、京都大学防災研究所地域防災システム研究センター助教授を経て、96年に京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授。2015年から現職。専門分野は社会心理学。著書に「いのちを守る地震防災学」( 岩波書店)「率先市民主義」(晃洋書房)など。
企業の事業継続力は、社会が危機を乗り越える力になる。
「オールハザードBCM」の意味はそこにある。
新型コロナウイルス感染症を筆頭に、昨年2021年も豪雨や地震、事件・事故など、さまざまな危機が日本社会を襲った。そこにみえてくるものは何か、企業・組織は何を教訓に、何を目指して、何に取り組めばよいのか。いま、急速に注目を集めている考え方が「レジリエンス」と「オールハザード」だ。リスク対策.com はこの2つをキーワードに、防災科学技術研究所の林春男理事長にインタビュー。昨年の災害・事故を振り返りながら、日本社会が抱える課題、企業が果たすべき役割と取り組みの方向性について語ってもらった。年頭の言葉として紹介する。
2021年の災害を振り返る
――昨年の事故・災害の様相をどう振り返りますか? 特徴的な出来事や印象に残る事象は?
過去5年で比較すれば、昨年2021年は、災害は起こるも大事には至らずに済んだ印象がある。社会がギリギリで踏みとどまっているともいえるかもしれない。
記憶に刻まれたのはやはり新型コロナで、昨年はそれがすべてだったといっても過言ではないが、自然災害に絞れば一昨年暮れから昨年1月にかけて起こった豪雪が印象深い。大規模な立往生によって12月は新潟で高速道路が止まり、1月にも新潟から福井にかけて高速道路・国道が止まった。
物流の根幹が長時間止まるわけだから、事業継続マネジメント(BCM)の観点でみると影響は極めて大きい。高速道路会社にとって最大の脅威は雨だが、雪もまた雨と同等のインパクトを持つ。高速道路は気象災害に弱いことを如実に示したのが昨年の豪雪だったのではないか。
熱海の土砂災害も衝撃が大きかった。民家が立ち並ぶ傾斜地の谷筋を大規模な土石流が襲い、被害が大きくなっただけでなく、その様子が映像として映し出された点で特徴的だった。
冒頭、災害が大事に至らずに済んだ印象があると述べたが、個々の被災者の人生にとってどんな規模の災害であっても極めて大きな出来事であるのはいうまでもない。ただ、マクロ的にみれば、昨年はここ5年のなかでは比較的被害が少なかった年といえる。
――「被害が少なかった」という印象を受けるのは、激甚な自然現象にたまたま見舞われず、幸運だったからでしょうか?
2019 年の台風19号(令和元年東日本台風)で、北陸新幹線の車両基地が水没したのは記憶に新しい。これだけで被害額は百数十億にのぼるが、その後の運休・減便まで含めると経済損失はさらに膨らみ、長期かつ広範にわたって社会が影響を受ける。交通や物流の要衝がやられるインパクトは極めて大きい。
このことは、企業のBCMのうえで極めて重要。つまり、事業継続において「自社本社や自社の拠点がやられなければよい」わけではないということ。何が幸運なのかは一概にはいえない。
自治体であれば、住民を「面」で守る。守備範囲がポリゴン空間で構成されているから、我が町我が村が災害に見舞われないことが重要な関心事だ。しかし企業活動は「点」と「線」。各地に拠点があり、それを結ぶ交通網・物流網があってビジネスが成立している。影響を受ける範囲や要因ははるかに広い。
その意味で、昨年の熱海の土石流で東海道本線や東海道新幹線に被害が出なかったのはBCMのうえで幸運だった。もし寸断されていたら、災害の様相と影響、そして災害の印象も、まったく違ったものになっていただろう。
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