停電時に、BCPの要である非常用発電設備が稼働しない可能性がある。その原因については前号で述べたが、今回は解決策に迫りたい。

過去の体験談であるが、メンテナンス不備の非常用自家発電設備の試運転を行ったところ、経年劣化した燃料が影響したのか、大量の黒煙が排出され、近隣から火災の誤報が通報されたり、近隣の交通に支障を与えた事例がある。

別件では、社内技術者のトラブル復旧の実務訓練時に、レンタルした移動用発電設備において、100%の負荷をかけて運転を行った際、過去に軽負荷運転(実際に想定される負荷より軽い負荷をかけての試験運転)が多かったためでであろうか、排煙とともにカーボンが混じった火の粉が排出されていることを確認したこともある。リスクを理解し、適切かつ定期的な予防保全を実施して不具合要素を除去していれば、回避できるトラブルである。

対策の基本は予防措置

非常用自家発電設備の不稼働リスクを軽減する対策の基本は予防措置である。いざというとき、非常用自家用発電設備が確実に稼働し、電気を供給できるよう、定期的な点検整備を確実に実施するとともに、維持保全のための簡単な整備は、製造メーカーや保全業者任せにせず、現場常駐の技術者で対応できるように準備しておくことが必要である。「燃料系統の空気抜き」や「フィルター交換」など、自動車整備のDIY知識でも対応できる比較的簡単な作業なので、日常の災害対応訓練の際などではチェックすべき項目に取り入れて、BCPを遂行するためのBCMの視点で、定期的な点検整備と稼働テストを通して、災害などの緊急事態において確実に稼働するように備えることが重要である。

不稼働リスクを軽減する具体的な対策に関し下記の対策案を列挙してみる。

①法定点検など定期的な点検整備の実施

点検しないことのリスクを正しく理解して、定期的な点検整備を確実に行い、設備の不稼働の未然防止のために、不稼働リスクを排除し、機能維持することは、BCP対応の基本と考えるべきである。定期点検時に際しては、経年劣化した長期備蓄燃料や潤滑油の分析も考慮し、劣化度合いによる使用可否を確認し、燃料起因の不稼働リスクを排除することもポイントである。

また、非常用自家発電設備が稼働しても、「遮断器の不具合」で必要な負荷に、電気を供給できないという事故事例も散見される。遮断器は、長期間動作しない場合、可動部に塗布されるグリスの粘性が低下し、可動部が固着することが多い電路構成要素のデバイスである。

「非常用自家発電設備」単体でなく、非常用自家発電設システムとして、負荷に電気が供給される切替制御機能の確認も忘れてはならない。最悪時を想定し、自動で切替動作しない場合に、手動で遮断器操作ができるよう、保全要員の操作訓練も考慮すべきである。特に、切替操作など制御系統では想定外の挙動をする可能性があるため、マニュアルだけでは対応できない。シーケンス図などを読めるスキルを持つ保全要員の育成も進めるべきだ。

災害時など、最悪の場合は通信途絶で、メーカなどと連絡することも困難となる。自動制御モードを切り、手動制御モードで遮断器を上位から手動で操作するような、自立的な対応に関する演習や訓練も必要かもしれない。

ただし、停電時に非常用自家発電設備が起動しても、電気が給電できない事故が起こると、現場の技術者や保全要員においても、慌ててパニック状態になる可能性が高い。冷静な判断や適切な操作ができず、さらなる連鎖事故を誘発する可能性も高くなる。手動操作による復電操作は、時間も人手もかかるだけでなく事故リスクも高くなることには注意が必要だ。

リスク管理の視点では、演習、訓練も重要であるが、定期的な点検整備で「停電検出⇒非常用発電設備稼働⇒負荷への電気の給電」という、自動制御による一連の流れを確認し、不安要因を取り除いたほうが良いであろう。

詳細解説は省略するが、平成30年6月1日に施行された「自家用発電設備点検の改正」に関しては、下記リーフレットに概要が解説されているので、実務の参考にしていただきたい。 

・消防庁 自家発電設備点検の改正に関するリーフレット (平成30年6月1日)

・消防庁 内部観察等とは?

消防庁 予防的な保全策とは?

・運転性能の維持に係る予防的な保全措置
(非常電源(自家発電設備)の交換・整備履歴表 参考例)

・一般社団法人 日本内燃力発電設備協会 自家発電設備の点検方法改正に係る説明映像(ダイジェスト版)

②燃料供給

稼働不具合において、「燃料切れ」の割合がかなり多い。BCP対応の基本である「災害時優先燃料供給契約」の締結などにより安心している組織も多いと推測する。しかし、過去の災害事例を考慮した場合、本当に優先契約による燃料供給が提供できるのであろうか?

通常時であればタンクローリーなどで燃料を補給することが可能かもしれないが、大規模地震などの激甚災害においては「製油所の被災」や「交通インフラの損傷」「道路の交通規制」など、さまざまな要因で大型のタンクローリーによる給油は期待できないという認識も必要である。

「非常用自家発電設備の準備」と「燃料の補給」が必要不可欠であるが、盲点があり、昨今の稼働案件の原因となっている事も忘れてはならない。東日本大震災の際、首都圏などにおいても、非構造部材である各種配管類の損傷が多く報告されている。非常用発電設備における燃料供給の要である危険物配管が地震時に損傷した場合、非常用発電設備の機能維持に大きな懸念があるため、平成30年10月、東京消防庁より「非常用発電設備の配管の耐震措置に係るガイドライン」が策定・公表されている。

「非常用自家発電設備の準備」と「燃料の補給」において、健全な配管が必要不可欠である。燃料系統の故障・異常の不具合除去の為、燃料供給系統の配管類の耐震措置も重要なポイントである事を忘れてはならない。

・東京消防庁:非常用発電設備の配管の耐震措置に係るガイドライン

③リニューアル

非常用自家用発電設備の耐用年数は、「法定耐用年数で15年」「国土交通省/官庁営繕基準で30年」とされている。日常的に使用されない設備で、耐用年数を迎える時期においても、積算稼働時間は100時間程度で、使用時間的には非常に短いと思われる。

安定した電気を確実に供給できる機能が要求される設備であるが、補修部品などの入手が不可能となり、故障時の修繕対応が困難となる可能性があるため、設置から20年程度を経過する設備に対しては、計画的なリニューアル計画が必要と考える。

④燃料の見直し

東日本大震災の際、東北の被災地のみならず、関東圏でもガソリンや軽油などの供給不足が生じている。製油所の被災による生産量の減少や物流状況も関係するが、②でも指摘したように、需要の多い液体燃料の供給は期待できないことが想定される。

一方で、東日本大震災の際、活躍したのが気体燃料であるLPGを利用した車両や発電機である。水道、電気、都市ガス、石油製品などの供給再開には長期の日数を要しているが、LPGはわずか数日で供給の再開を実現している。「軒下在庫」が可能な分散型エネルギーであり、昨今、非常用自家発電設備への適用が広がってきている。

重油、軽油など、液体燃料という特定の燃料への依存は、災害時のリスクとして大きな不安要素になっている。非常用自家発電設備の新設計画やリニューアル計画においては、「液体燃料+気体燃料」という”DUAL FUEL”仕様の選択などで、電気供給の信頼性向上を考慮したシステムの選択を検討することも必要と考える。

「非常用自家発電設備」に「燃料」が必要不可欠であるが、消防関連法令とは別に、労働安全衛生法令の適用を失念してはならない。燃料などの危険物等を一定数量以上貯蔵する自家発電設備の燃料タンクは、化学設備(化学物質等を 製造・取扱う設備)としての規制を受け、労働災害を防止するため、事業者に必要な措置を講じることが義務づけられている。非常用自家発電設備の点検とは別に、燃料タンクなどの自主検査なども考慮が必要である。