ファシリティマネジメントの視点から見たBCPの盲点
自然災害などでは、広域かつ長時間の電気供給の途絶(停電)が発生するケースが少なくない。将来的に停電のリスクが低減することはあり得ない。一方、企業のBCP対応実務においては、電気がないと、事業を継続するために必要となるさまざまなインフラを利用できず、復旧作業が進まないのが現実である。事業を継続しながら災害対策活動を行うには、BCPの基本として、安定した電気を確実に供給できる「非常用自家発電設備の準備」と「燃料の補給計画の策定」が必要不可欠である。
非常用自家発電設備が稼働しない原因
いつ、どこで発生するかわからない停電。その際、一般に採用される設備として非常用自家発電設備があるが、せっかく設備を導入していても、いざ、停電発生時に正常に稼働しないというリスクが高いことをご存じだろうか?
26年前の阪神・淡路大震災における(一社)日本内燃力発電設備協会の調査報告書によると、整備不良と操作不良によって作動しなかった発電設備があったことが報告されている。10年前の東日本大震災における同協会の調査報告書では「整備不良によって作動しなかった発電設備」が全体の41%、「始動したものの途中で異常停止した発電設備」が全体の27%もあり、非常用自家発電設備の確実な動作の確保に関する問題が提起された。
阪神・淡路大震災から26年が経過するものの、昨今の自然災害においても、相変わらず不稼働事象が多く、適正に作動しない原因として、法定点検等が十分に実施されていないことが判明している。
最近の不稼働事象の具体例を挙げると、下記の災害などで、問題が指摘されている。
・平成30年 大阪北部を震源とする地震における大規模停電における不稼働
(中部近畿産業保安監督部:電気事業法の順守に関する厳重注意案件)
・令和元年 台風第15号におけるにおける大規模停電における不稼働
(日本内燃力発電設備協会:概要報告)
上述のような、法定点検等を十分に実施していないことに起因した事例が多数発生していることを受け、国からは「非常用自家備発電設備の確実な動作の確保」を求めるさまざまな文書が出されている。
・非常用電源等の法令点検未実施の病院に対する適切な対応について
(令和元年7月 31 日 総務省防庁予防課事務連絡)など
・自然災害に備えた非常用予備発電装置の確実な動作の確保について
(令和2年8月28日 経済産業省産業保安グループ電力安全課)
非常用自家発電設備の種類
ところで、非常用自家発電設備には、以下のような種類がある
(1) 防災用
法令(消防法または建築基準法)に基づき設置が義務づけられた「消防用設備(消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設など)」や「建築設備(非常照明、排煙設備、非常用エレベータなど)」という防災設備に電気を供給するもの。「運転時間」や「燃料保有量」に、法令による規定がある。
ア 防災専用機
停電時、防災設備のみを対象に電気を供給
イ 防災用・保安用共用機
停電時、防災設備に加え、設置者が自主的に設けた設備(一般照明、空調、コンピュータ、医療機器等)も対象に電気を供給
(2) 保安用
ア 保安用専用機
停電時、防災設備以外の設備(一般照明、空調、コンピュータ、医療機器等)を対象に電気を供給
法定点検の内容
防災用や保安用の非常用自家発電設備は、法定点検として、「電気事業法」ほか、負荷に応じて「消防法」「建築基準法」により、義務化されている。
多発する不稼働事象は、非常用自家発電設備の設置者において、義務化されている法定点検などの趣旨を十分に理解せず、点検を実施していないことが、非常時の不稼働につながるリスクという認識が欠如しているためであろうか?
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