2021/03/07
事例から学ぶ

東日本大震災では、部品供給網の寸断が大きな課題となった。その影響は国内にとどまらず、全世界へと及んだ。その後も、災害がある度にサプライチェーン問題が顕在化している。IT化の進展などにより、製品に使われる部品そのものが複雑になっていることに加え、気候変動などに伴う異常気象が追い打ちをかける。さらに企業では人事により担当が入れ替わり、災害の教訓すら引き継がれていないケースも見受けられる。外部環境、内部環境が大きく変化するなかで、BCPを実効性のある形で運用していくことは容易ではない。日産自動車では、東日本大震災前からの継続的なBCPの取り組みと、過去の災害検証を生かしたサプライチェーン管理の仕組みにより、災害対策に手ごたえを感じ始めているようだ。コーポレートサービス統括部担当部長の山梨慶太氏に聞いた。
日産自動車
神奈川県横浜市
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
サプライチェーンが見えなかった
Q:東日本大震災で特に課題となったことはどのようなことですか?

サプライチェーンが見えなかったということが大きな課題だったと思います。二つの側面があるのですが、一つは、われわれがこれまで付き合っていたサプライヤーさんが把握できていなかったということ。特に三次、四次サプライヤーさんで把握できていない会社がありました。もう一つは、付き合っていることは分かっていたけど、何の車にその部品が使われているのかがすぐに分からなかった会社もあります。東日本大震災では、そうしたサプライヤーさんが被災をして、車が作れなくなってしまいました。
別の課題としては、被災したサプライヤーさんに、他のメーカーと一緒に復旧サポートチームを作って支援に行ったのですが、もともとそのようなチームがあったわけではなく、人選や、いつのタイミングで行くのか、特に原発の問題もあり決死の覚悟で行くような状況だったので、スタートダッシュがうまく切れなかったことが反省点でした。大きく被災したサプライヤーさんが、他社では作れないオンリーワンの部品を製造していたということもありました。そのサプライヤーの複線化も進めていますが、コストなどとの関係で難しい対応が迫られました。
サプライチェーンの一番弱いところは、たった1個の部品がなくても車が作れない、デバイスが作れないというところです。そこを底上げしないとリカバリーは早くできないということを、まざまざと見せつけられたのが東日本大震災です。
Q:自社工場の直接的な地震被害よりは、サプライチェーンの被災の方が対応として大変だったということですね?
自社工場で言うと、福島県いわき市に高級エンジンを作っている工場があるのですが、ここは大きく被災しました。ただし、その後の復旧がわりと早くでき、また、エンジンもいろんな量産車に使っているものではなく、スカイラインのような、かなり大きめの高級車に使っているエンジンで、サプライチェーンが部品を納入するスピードも量産車と比べると緩やかだったこともあり、大きな影響は防ぐことができました。
幸い、車両を組み立てている工場では大きな被害を受けたところはなく、そこは助かりました。逆に、サプライヤーの被災により部品が入ってこなかったがために、車両工場が口を開けて待っているような状態になってしまったということです。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方