2015/01/25
誌面情報 vol47
災害対応を早める「状況認識の統一」手法解説
災害対応における効果的な情報共有の仕組み

災害時に、関係組織が連携して対応にあたるためには情報共有が欠かせない。どこで、どのような被害が発生しているのか、それに対してどのくらい対応が進んでいるのかなど、災害の全体像を把握し共有しなければ、組織間で足並みを揃えることはできない。その際に役に立つのがCOP(状況認識の統一:Common Operational Picture)と呼ばれる手法だ。被害状況の変化や、対応状況の変化を色分けして「見える化」することで、関係者が瞬時に情報を共有することができる。本セミナーではCOPの重要性を学ぶとともに、実際に参加者にCOPを作成してもらった。講師は、欧米で使われているCOPを研究し、東日本大震災でCOPを活用し災害復興を支援した京都大学防災研究所教授の牧紀男氏と、COPのプログラム化により組織の災害対応能力の向上を目指す株式会社レスキューナウ危機管理対応主席コンサルタントの秋月雅史氏。
ハリケーン・カトリーナ、東日本大震災でのCOP活用事例
講師:京都大学防災研究所教授 牧紀男氏


平時では、今自分がどういう状況にあって、次にどのような状況が発生するかが分かるので、通常の生活を送ることができます。しかし災害時には、東日本大震災で皆さんがご経験の通り、電車が止まるなどライフラインは寸断され、物資の配給もできなくなります。何が動いて何が止まっているのか、変化する正確な情報を知る必要があります。
災害対応の基本は、まず「災害によってもたらされた新しい現実を知る」ことです。
しかし、情報を収集するだけでは、効率的に把握したとは言えません。組織としてどのように対応しているのか、自分たちの状況も把握することが求められます。災害対応時に情報を収集する場合、被害の情報ばかりを取りに行こうとしますが、むしろ重要なのは、どのように対処しているかです。実際に被害が発生しているなら、警察や消防に連絡をとったか、重機を手配しているのかなど。これが「新しい現実を効率的に把握」することです。
次は「関係機関間で情報を共有」することが求められます。通常、組織の仕事はチームでやっています。例えば今日の私で言えば、もし雪が積もって新幹線が止まれば、「止まった」と考えるだけではだめで、主催者に遅れることを連絡しなければいけない。「雪で10分くらい到着が遅れる」ということが伝われば、主催者側でその対応をすることができます。そしてその状況を、主催者側がセミナー参加者に伝達することが重要で、これが「統一された状況認識」となります。その状況認識を持って、適切な意思決定を行うというのが災害時の対応の一連の流れです。
COP(状況認識の統一) ・状況認識とは -今何が起こっているのか -どう対応しているのか -今後どのように対応対処するのか ・上記のことを、対応に関わる全ての人が共有する ・大局観を持つ |
対応計画の策定と共有
COPとは、今何が発生しているか、どう対応しているのか、今後どのように対応するのか、その状況認識を統一して、災害に関わる全ての人が共有をすることですが、米国の危機管理システムであるICS(Incident Command System)では、災害時に情報共有すべき項目をICSForm201として概括説明しています(図1)。

まず左側上部に状況認識、下部に組織編成を記載します。同じように、右側上部に資源配置、下部には活動方針を書きます。災害対応をするうえで、みんなが共有すべき基本的な情報を記載します。次に具体的に、組織として状況認識の統一をどうやって作っていくのかをまとめたのが図2です。
中央左側に大きく「状況分析」「資源配置」とありますが、この2つは情報元が違います。状況分析はマスメディアや、行政であれば災害情報システムなど外部の情報です。資源配置は、組織内各部局からの被害・対応状況なので、内部からの情報になります。これらの情報をCOPとしてまとめ、当面の対応計画であるIAP(Incident Action Plan)を作成します。そして図の右側はIAPを計画実行する部隊になります。
誌面情報 vol47の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/11
-
-
DXを加速するには正しいブレーキが必要だ
2月1日~3月18日は「サイバーセキュリティ月間」。ここでは、企業に押し寄せているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波から、セキュリティーのトレンドを考えます。DX 時代のセキュリティーには何が求められるのか、組織はどう対応していくべきか。マクニカ ネットワークスカンパニー バイスプレジデントの星野喬氏に聞きました。
2025/03/09
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方