セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
テロに遭わないのはラッキーなだけ
セキュリティにゴールはない
Toki's SECURITY Lab./
平川 登紀
平川 登紀
旧姓・宇田川。映画『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリスに憧れ渡米。ワシントン州立大学大学院で犯罪法学(Criminal Justice)の修士号を取得。帰国後、航空セキュリティ関連の財団法人で、空港保安検査員の研修や保安検査状況の監査を担当し、航空セキュリティに興味を持つ。2007年、東京大学大学院博士課程へ進学し、本格的に航空セキュリティマネジメントの研究をスタート(2011年単位取得満期退学)。2021年に佐賀県唐津市へ移住。現在、フィジカルセキュリティストラテジストおよび航空セキュリティ研究者として活動中。
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2017年12月の連載9までは、航空保安について説明してきました。2018年1月の今回からは、航空保安におけるセキュリティとサービスから学ぶ『大規模イベントセキュリティ』についてお話をさせていただきます。
今月は、私たちの身近に潜むテロの脅威について知っていただきたいと思います。
ビッグイベントが目白押しの日本
日本には毎年多くのビッグイベントがやってきます。1964年は東京でオリンピック・パラリンピック、1972年は札幌で冬季オリンピック、1998年は長野で冬季オリンピック・パラリンピック、2002年は日本と韓国でFIFAワールドカップなど、世界的なスポーツの大会が日本で開催されました。
来年はラグビーワールドカップ(日本では初)、2020年には東京オリンピック・パラリンピック(日本では2回目)が予定されています。これらの超ビッグイベント以外にも、国際大会や親善試合なども年間を通じて数多く実施されています。
スポーツイベントだけではなく、政治的また経済的な会合も日本国内で開催されています。過去に日本では6回もの主要国首脳会議が開かれました。直近の日本開催は、2016年の三重県『伊勢志摩サミット』、その前は2008年に洞爺湖で行われました。アジア太平洋経済協力(APEC)は、1995年に大阪、2010年に横浜で開かれています。
例えば、横浜では2002年に『FIFAワールドカップ』、2010年に『APEC』が開催されました。両方とも国際的なビッグイベントです。しかし、スポーツイベントとVVIPイベントでは脅威となるものが大きく異なり、警備の方法も全く違います。
『APEC』では、各エコノミー(注:香港と台湾も参加しているため、『国』ではなく『エコノミー』と言われます)から首脳が一堂に会し、彼らとともに多くの要人も来日します。彼らは各エコノミーのSPと日本の警察に徹底して守られながら、スケジュールに沿って行動します。一方、スポーツイベントの観戦にやってくる一般人は好き勝手に自分たちの都合で会場までやってきます。
警察OBの方と『国際イベントの警備』について話をしたときの言葉が印象に残っています。
「APECなどで来日する要人は自分が狙われているという意識を持っているのでスケジュールを大きく変更するような無茶はしない。基本的に計画通りに動くので、先回りして警備ができる。難しいのは、スポーツイベントなどにやってくる一般人の警備だよ。どういう動きをするのか全く読めないからね」
自分がテロの被害に遭うかもしれないと常に考えて行動している人、爆発があるかもと思いながらスタジアムへ行く人はほとんどいません。もし一般人が全員テロの恐怖におののき、誰も家から出なくなったら、その瞬間にテロリスト側の勝利となります。彼らのテロ行為の目的は、人々に恐怖を植え付けることなのですから。
テロの傾向
かつてのテロリストグループは、同じ政治的思想を持つ仲間同士の小さなグループでした。テロには銃や爆弾を使用し、飛行機をハイジャックしたり、人質を取ったりして、自分たちの想いを実現するためにテロ行為を行いました。一般人を巻き込むテロを行いながらも、このときのターゲットはあくまでも国であり政府でした。それが1990年代後半には、車や自分自身を使っての自爆テロを、人々が集う場所(ソフトターゲットと言われています)で行うようになりました。インターネットの普及とともにテロリストは世界中に広がりました。
2001年の米国同時多発テロをライブで見ていた人々は、そのときに感じた恐怖を今でも覚えているのではないでしょうか?9.11テロを境にして、テロリストたちにタブーはなくなったと感じます。テロの方法は何でもよい(禁じ手はない)、場所はどこでもよい(人が多く集まる場所ならなおよい)、とにかく世界中にインパクトを与えればよい、この意識は現在のテロリストたちに共通しています。
テロのターゲットは私たち自身
テロは頻繁に発生しています。国内にだけ目を向けているとテロは遠い異国の話ですが、私たちが仕事や観光で訪問することもある国々では毎年のようにテロが起こっています。テロ対策に余念がない欧米でも、一般の人々がにこやかに集う場所、スタジアム、マーケット、イベント会場などでテロが発生しています。警察や軍を総動員したとしても、すべてのエリアとすべての人々を24時間365日完璧に守ることは不可能です。
上の表は、日本でも大きく報道されたここ数年のテロの状況です。リスク対策.comの読者にも、「ボストンマラソンを走った」とか「マンチェスターアリーナでのコンサートに行った」と思い出す方がいるでしょう。『今生きていて、この記事を読んでいる』、テロリストが狙ったその日その時間その場所に自分が偶然いなかっただけ、ラッキーだっただけなのです。
2年後、世界最大のスポーツの祭典であるオリンピック・パラリンピックが東京にやってきます。セキュリティ関係者は開催期間中のセキュリティ対策をどうするか、ということに躍起となっています。
しかし、セキュリティにゴールはありません。テロリストとは常に追いかけっこ、さらにはこちらが常に先手を打っていく必要があります。2020年以降もセキュリティレガシーとして日本国内に浸透させられるもの、さらに国際社会へも新しいセキュリティ対策として日本から発信していけるものが構築されなければなりません。世界的規模でテロ対策を考えなければならない今、これは先進国と呼ばれている日本の使命だと考えます。
来月は、一般人が大量に押し寄せるスポーツイベントのセキュリティ対策について、旅行者であふれることもある空港のセキュリティ対策と比較しながら考えてみたいと思います。ご意見・ご感想をお待ちしております。
(了)
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