2021/01/25
事例から学ぶ

東北から関東の太平洋沿岸を襲った巨大津波が多数の人命と生活を奪っただけでなく、原発事故による放射能汚染が故郷をも奪った大震災から10年。未曽有の被害を経験した企業は、もう二度と悲劇を繰り返さないという思いで災害への備えを進めてきた。「医療と防災のヒトづくり・モノづくりプロジェクト」を推進する北良株式会社(岩手県北上市、笠井健社長)も同様だ。人材開発と技術開発を両輪に「災害に強い社会づくり」を本気で目指すプロジェクトは確実に成果を上げ、社内に防災文化を築くとともに、事業活動を通じて地域へ、全国へとその波紋を広げている。「技術開発」にスポットをあてて取材した。
北良株式会社
岩手県北上市
❶ 多様化する在宅医療ニーズに応じたサービス供給
・災害に強い輸送体制だけでなく、在宅医療患者の状態に応じて最適な供給ができる体制を、自社開発の技術を使ってつくり上げる
❷ 投資回収を支える「被災者との対話」「外部とのコラボ」
・ 被災地で実際の要望を聞き、それに応える技術を外部と協力して開発。リアルな問題解決は的を外すことがなく、パートナーも社会貢献を実感
❸「 たった一人のため」の技術を広く普及させる
・ 社会の余力が失われるなか、いわゆる「災害弱者」へまなざしを向けるのは地元中小企業の役割と自覚。「たった一人のため」にモノをつくり、しかしそれが広く受け入れられるようアプローチ
昨年12月、ICT技術を活用したビジネスコンテスト「クロステックイノベーション2020」(主催:北海道銀行、七十七銀行など)の東北地区最終選考会で優秀賞を受賞した。評価されたのは水、電気、ガスなどのインフラを備え、災害時も自立生活を送れる居住スペースの提案。ベンチャー企業のWOTA(東京都)と共同開発した新技術だ。
40フィートのコンテナハウスを高断熱化し、台所、水洗トイレ、シャワールームを完備した居住スペースは名称を「レスキューブ」という。完全オフグリッドで、太陽光発電と液化石油ガス(LPG)発電機を搭載、不足する電気はガソリンとLPGで走行可能なハイブリッド車の電源から補填する。
水は生活用水をろ過しながら循環利用できるWOTAの水処理装置「WOTA BOX」を内蔵。トイレの汚水は微生物によって分解し、発生する窒素と二酸化炭素は空気中に放出、きれいになった水は再利用する。被災地に運び込み、ライフラインの接続工事なしで仮設住宅とすることが可能だ。

「インフラが寸断された場所でも使用でき、かつ全国に移動可能。高断熱化しているため温度環境も一定に管理できる」と笠井健社長。基礎疾患を持つ高齢者や小児がコロナ禍で通常の避難所に行けなくなっている現状をにらんだ。多様なニーズに応える次世代の分散型避難システムと位置付ける。
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