千代田区のハザードマップを見ると、荒川決壊の想定では大丸有地区の半分強が浸水深0.5m未満、残りのうちの3分の2が1m未満、3分の1が2m未満の浸水予想地区に指定されており、現在開発中の大手町地区は1m未満の浸水が予想され、地下鉄も水没するレベルになっている。 



大庭氏は「ビルの水害で最も恐れなければいけないのは、通常ビルの最下層にある重要設備室が浸水し、機能しなくなること。場合によっては復旧に半年かかってしまうこともある。これは震災よりも大きな影響がある」と話す。 

重要設備室とは、電力会社から受電した電力を、ビルの設備に適した電圧に変換する受変電施設や、ビルにエネルギーを供給するための熱源をつくる機器など最も重要な設備が設置されている場所。通常は大規模で重量のある設備が多いため、震災対策としてビルの構造上一番強固である最下階に設置されることが多いが、かえって浸水の危険度は高いという。 



「現在進行している第3次事業のビルでは、重要設備室を最下層から1階~2階上の階に設置するようにしている。最下階が水没しても重要室は生き残るような止水対策をとっている」と大庭氏は話す。 

その他にも第3次事業のビルではビル出入り口に従来以上の高さを持つ防潮板などを設置するとともに、万一浸水した場合に備え防水仕様の水密扉を重要設備室に設置するなど、最新のハード対策をとっているという。既存ビルへの水害対策 では、既存のビルに対してはどのような対策を講じるのだろうか。 

「いわゆる東海豪雨クラスが東京に発生した場合の浸水の高さまでは、確実に治水対策を施し、昨今激しくなっている集中豪雨に対応する」(大庭氏)。 

従来のビルは基本的には土のうを積み上げて出入り口をふさぐやり方が多いが、土のうはストックする砂の量も莫大になるし、人的対応にも時間がかかる。荒川の決壊など外水は到達までのリードタイムが見込めるが、ゲリラ豪雨の場合はそうはいかない。同社では、スウェーデンに本社を置く洪水対策設備メーカーのNOAQ Flood Protection AB社の「BOXWALL」という浸水防止設備を採用した。一見すると座椅子のような、樹脂でできたユニットをクリップでつなぎ合わせるもので、接合部分にはパッキンが入っていて、ある程度の水圧になると水の自重によって強く結合する構造だ。

自社でさまざまな商品をテストしたところ一番効果があり、時間も短縮し、収納場所も取らず軽量だったという。このシステムを水害対策の第一弾として全てのビルの出入り口に配置した。これは1次止水対策で、重要設備室を保護するまでに2次、3次の止水対策も設けているという。 「もちろん、既存のビルにも今後、荒川決壊クラスの水害に耐えられる仕組みを検討していかなければいけない」と大庭氏は話している。